短・中編小説
□ヘタレ共の純恋歌
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「いやいやいやいや、無理無理無理だって」
生徒会室から響くのは、頑なに否定を繰り返すバリトン。
「無理」だの「出来ない」だの、飽きることなく言い続けている。
「そんなことばっか言ってないで、さっさと告ってくればいいじゃん」
半ば呆れた口調で話すのはこの学園の、所謂「生徒会副会長」の肩書きを持つ稲葉 大地。
大地が話しかけているのは生徒会長・野賀 紘幸。
この会長、憎らしいくらいの美貌とそれに見合った頭脳を兼ね備えた、言わば完璧人間。
と、端から見ればそうなる。
しかしながら、彼の幼馴染である大地は知っていた。
彼が、紘幸が片思いの相手には声を掛けることすら出来ないヘタレだということを。
(外見だけ見れば俺様とか、そんな感じなのになぁ。)
残念だ。
口には出さず、そう呟いた。
「つか、マジ無理。大地助けろ」
訂正。
こいつは正真正銘の俺様だ。
+αでヘタレのオプションが付いているんだ。
まぁ、そのオプションがこの上なく厄介なのだが。
「それこそ嫌だよ。自分のことなんだから、自分で頑張りなよ」
俺が手を出したって、いい結果が待っている筈がないだろう。
「大地のクセに生意気言ってんじゃねぇよ」
「その態度で話しかけてみれば」
「無理」
「即答すんな、バカ幸」
バカ幸言うな。と反論されるが、そんなの無視だ無視。
「あー……。俺、もうちょい見てるだけにする」
まだ見てるだけで満足だしな!
そうかよ。見てるだけじゃ満足出来なくなったらどうするんだろうね、このヘタレは。
ひとつ、紘幸に気付かれないように息を吐く。
ま、俺としてはまだヘタレでいてほしいけどな。
紘幸が机からその端正な顔を上げ、こちらを見てくる。
「……何」
「いんや、やっぱまだ大地ん隣の方が落ち着くなぁ、と」
ほら。
「そうかよ。下らんこと言ってないでちゃっちゃと仕事しな」
俺だって紘幸の隣が一番落ち着く。
多分、家族愛みたいなものなんだろうが、今はまだ、それを手放す気にはなれない。
これを紘幸に面と向かって言えない辺り、俺も充分ヘタレなんだろうな。
でも、だから、
まだまだお前に紘幸はやんないよ。思い人君?
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