短・中編小説

□司書さんと
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 東高校図書館。そこが俺のベストプレイスというやつだ。

 元来読書が好きで、本の虫、とまで呼ばれていた。司書になることは俺の長年の夢だったし、どうせ勤めるなら蔵書の多い所が良かった。

 市営の図書館で働いていた時、東高校から声がかかったのだ。願ってもないことだった。東高校の図書館は、県内でも有数の蔵書数を誇っている。そんな素晴らしい場所で働けるとは、と俺は二つ返事で承諾した。


 そして今。

 俺は毎日本に囲まれ、幸せに働いている。図書館の静寂は心地良いし、定期的真新しい本が入荷するのが待ち遠しい。館内の書物閲覧の許可は勿論下りているため、人が来ないうちは読み放題だ。

 ただ一つ難点なのは、利用者が殆どいないことだ。こんなに充実しているのに勿体無い。まぁ、お陰で俺は割と好き放題出来るのだが。

 しかし、これだけの蔵書がありながら利用者が少ないのは少々遺憾だ。

「お、新刊入れたのか」

 山積みになったハードカバーを見つけ、俺は思わず手を伸ばした。一切日焼けしていない綺麗な白に、俺の口角が上がった。テンションが上がるじゃないか。一冊一冊が厚みのある単行本故に、隣に置かれている文庫本の山よりも背が高くなっている。冊数は文庫本の方が多いのだが。

 いくらか、最近立ち寄った書店でも見かけたタイトルもある。

「早速棚に並べるかな」

 いや、先にパソコンに登録しなければならないか。いくら借りる人が少ないからと言っても、仕事を怠っては憧れの司書になった意味がない。

 俺は鼻歌交じりに次々っ本の山を受付カウンターに移動させた。カウンターに設置されているパソコンで新刊図書の登録を済ませなければならないのだ。が、その前に各本の裏に読み取り用のバーコードを貼らないといけない。

 このバーコードが案外大切なものだったりする。貸し出しするには、生徒に配られている図書館利用カードのバーコードと、借りたい本のそれを読み取る必要がある。さながらスーパーマーケットのレジ打ちだ。

 返却時には本のバーコードを読み取ればいい。そうすることで返却情報がパソコン内で上書きされるのだ。

 何ともまぁ、ハイテクなものだ。俺が学生の時は貸し出しカードが主流だった。時代の流れを感じる。

 と、爺臭いことを考えてみるが、俺が学生だったのはほんの六、七年前のことだ。

「にしても客来ねぇなぁ」

 こんなに新刊もあると言うのに。今日はまだ一人の来館者も数えていない。ぴ、ぴ、とバーコードを読み取る無機質な音だけが広い図書館に響き渡っている。




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