短・中編小説
□守るべき者を得た男の独白。
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何故なのか。
自問自答しても答えてくれる"俺"はいなかった。
向けられた銃口から目を逸らすことは叶わない。
先程まで硝煙を上げていたそれは、今や俺を噛み殺さんとばかりに牙を剥いている。
砕かれた腕では応戦することはおろか、逃げることすらままならない。
諦めなど、とうについていた。
俺は今までいくつの人間命を奪っていったか、もう覚えていない。
いつからか、考えるのも止めた。
気持ちを閉ざせば、俺は強者でいられた。
他の人生など厭わなかった。厭わしく思っていては、この世界で生きていくなど、到底出来ない。
生死の境は背後で今か今かと俺を待っていた。
俺がその深淵から足を踏み外すその瞬間を。
ここまで、生に執着し、この世に留まってきた俺が。こうも容易く己が命を絶とうと考えるとは。まさか、考えなんだ。
けれど、俺はこの糜爛たる世界で初めて、命に代えてでも守りたいと思えるものに出逢った。
お前は俺に"生きていく意味"を教えてくれた。"守ることの意義"を教えてくれた。
お前のその明るさが、俺は心地良かった。宵闇を照らす月のようで。無償の優しさが、俺の身を灼いた。
弱いくせにその細い腕で俺を抱き締めようとする。
白い無垢な指を血に染まった俺の指に絡めて。伝わる体温に、無性に泣きたくなった。
流れる涙を掬う仕草が酷く印象的だった。
お前はこの暗闇の中で泣いているのか。
光を感じない双眸から、止め処なく。伝う泪が冷たい床を濡らすのか。
あぁ、そんなことは。耐えられない。
お前が傷つくことなど許されない。
掌を強く握りしめる。
ただ、それだけで上がらない両腕に痛みが走る。
砕けた痺れは、鼓動に連鎖して。
腕が使えないなら引き金などに用はない。
鉛弾がこの身を貫こうとも、俺は立ち上がろう。牙剥く銃口を噛み砕こう。
俺の存在はお前の為に。
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