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□精一杯の背伸び
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 近所に住んでいる14歳年上のお姉さん。小さい頃からよく遊んでくれて、大好きな人。



「智哉くん、今日はどうしたの?」


 子供の特権。さして気にもせずに「好きな人」の家に入ることが出来る。


 異性と話をするのが恥ずかしいとか、思春期みたいなことは言っていられない。まぁ、まだ思春期は来ていないのだけれど。


 どちらにしろ、そんなことを考えている余裕なんてないから。


 そのお姉さんの名前は北原 璃子と言う。


 普段は璃子姉って呼んでいる。


 世間で言う才色兼備というもので、家事は勿論勉強も出来、最近就いた仕事場でも密かに人気のようだった。

 そんな璃子姉は、そろそろ結婚でも考えたらどうだ?と両親に言われるくらいの年齢。僕、智哉はまだ11歳。


 恋愛に年の差なんて関係ないというけれど、これはさすがにどうかと思う。

 ただ、この感情は確かに「恋」というもので。


 自覚したときから数えたって、もう2年以上片思いだった。



 そんなことに気を落ち込ませながらも、足は自然と璃子姉の家に向かっていた。


 いつも通り、柔らかい笑顔で出迎えをしてくれる璃子姉。

 けれど、いつもとは明らかに様子が違った。


 その感覚に少し不安を覚えつつも、璃子姉に招かれリビングに辿り着いた。












 子供の勘って意外と当たるものだよね。










「智哉くん、この人は私が今お付き合いしている直人くんって言うの。直人くん、この子は近所に住んでる智哉くん。小さい頃からよく遊んでいて、今でも偶にこうして遊びに来てくれるの。」




 こんにちは、と爽やかな笑みで挨拶されて、固まっていた僕は無意識に挨拶を返していた。


 僕の頭の中は、ついさっき璃子姉が言った言葉でパンクしそうなくらいいっぱいだった。


 璃子姉は確かに「お付き合いしている」と言った。その意味はよく分かる。


 璃子姉は、嬉々として二人の出会いについて語っていた。直人さん、も時々それに相槌を打ったり、ツッコミを入れたりしながら話を盛り上げていく。

 僕はそれをただ聞いているだけ。耳は傾けていない。


 ただ、音として届くだけ。


 多分、僕が入ることの出来る隙間なんてものは、この二人の間にはない。

 ぎゅうぎゅうに寄り添っていて、近づけば逆に跳ね返されてしまうだろう。



「あ、ちょっとごめんね。お菓子とお茶を持ってくるから。」


 話が一段落したようで、璃子姉はそう言ってキッチンへと駆け足で向かった。


 現在リビングには僕と直人、さんだけ。


 初対面の相手と弾ませることの出来る話題なんて持ち合わせている筈もなく。恐らく、あちらも同じだろう。


 とても、気まずい。







 ふと、僕はあることを考え付いた。


 凄く単純で子供らしいこと。










「ねぇ、」



「?どうした?」





 意を決し、目を見据えて口を開く。












「璃子姉を傷付けたら赦さないから。」



 まさか、小学生の子供にそんなことが言われるとは思っていなかったようで、相手は、少しタレ気味の目を目一杯に見開いた。


「言いたいことはそれだけだよ。」


 「子供らしい」無邪気な笑顔で、そう言い放つ。

 無垢、無邪気なんて程遠い気持ちで。




「璃子姉ー!僕そろそろ帰るねっ」


 逃げるが勝ち、と璃子姉に声を掛ける。


「もう?じゃあ、また今度ね。その時はちゃんとお持て成しするから。」


 キッチンからひょこっと顔を覗かせ、僕にそう言った。







「またね、直人さん。」





 ねぇ、だって無理だと分かっていても、諦められないのが「恋」でしょう?





















「………子供って怖いな……」






 それ以降、直人が璃子を訪ねる度に智哉が遊びに来ていたとか。




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