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□いつか君に届いたら
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「達紀、どっか具合でも悪いのか?」
午前の授業が終わり、今は昼休みだ。空腹もそろそろ限界で、いつもなら真っ先に弁当の蓋を開ける筈の達紀が、机に突っ伏したまま微動だにしない。
「へーき、だ」
少し籠もった達紀の声に、普段のような元気はなかった。今日の達紀は、一体どうしてしまったのだろう。
達紀とは入学から二年間友人をやっているが、こんなことは初めてだ。どう対処すべきか、全く分からない。
「飯、食わねーの?」
「食欲ねー」
この体勢から動く気はないらしい。相変わらず両腕を枕代わりにしたまま、伏せている。
しかしながら、午後は普通に授業がある。体調が優れないなら保健室へ行くなりすれば良いのに。昼抜きで午後を過ごすなど、ただでさえ燃費の悪い達紀に出来る筈がない。
「達紀、顔上げろ」
半ば命令めいた口調で促すと、渋々ながら達紀は顔を上げた。
「なに、んぐっ」
丁度良い具合に半開きの達紀の口に、無理やりクリームパンを突っ込んだ。
「食え。午後死ぬぞ」
そう言い捨てて、俺は自分の分の焼きそばパンの包装を破った。袋は、ばり、と少しばかり大袈裟な音を立てて、呆気なく口を開いた。実のところ、俺もいい加減空腹が限界だった。達紀には及ばずとも、燃費はあまり良くないのだ。
「……話、きーてくんね?」
「聞いてやらなくもない」
もそもそ、とパサついたパンを咀嚼して返事をした。選ぶの、失敗したかな。
「隣のクラスの橋沢っているじゃん」
長々と続いた達紀の説明を要約すると、隣のクラスの橋沢に好意を抱いて、何とかして買い物に誘いたいのだそうだ。つまるところ、デートをしたいと。
因みに、橋沢は男だ。
達紀は同性愛の気があるのだ。
しかし、そのことは隠しているようで、表では女性に興味があるように振る舞っている。
「橋沢って、彼女いたんじゃなかったか?」
「だから悩んでんのー……」
大して面識もない人間に、突然買い物に誘われて付いて行く奴など、少なくとも俺が知っているうちにはいない。橋沢と達紀の関係なんて相関図にしてしまえば、紙の外にさえ書かれないようなものだ。
そのことは達紀自身よく理解している。だからこそ、こんなにも悩んでいる訳なのだが。
「こりゃ地道に友達からだな」
「だよなぁ……」
はぁ、と溜め息をついて達紀は残りのクリームパンを口に詰めた。何だかんだで全て腹の中に収めてしまったあたり、やはり空腹だったようだ。
「まぁ、万が一、億が一、橋沢と上手くいったら、全力で祝ってやるよ」
それの関係が、友人であろうと恋仲であろうと、な。そう続けると達紀は、
「上げてから落とすなよ」
「精々頑張るこったな」
苦笑して、それでもどこか嬉しそうにそう言った。
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