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□そこに感情はいらない
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 その行為に感情はなかった。否、要らなかった。

 ただ双方の欲望を満たす為だけのそれに、感情などあってはならなかった。

 だって、そんなものがあったら脆いこの関係は直ぐに崩れてしまうから。


















 12月。隙間風なんてものとは無縁の、豪華な部屋。

 扉の外に掲げられているのは「生徒会室」の簡素な文字。


 カタカタと只管パソコンのキーを叩いているのは、今期生徒会長の松永 優山。

 給湯室で珈琲を淹れているのは、今期生徒会副会長の里賀 秋名。


 双方、特筆すべきはその容姿。雑誌のモデルなど比でないくらい整っている。綺麗の種類こそ違うものの、どちらも町を歩けば十人が十人、皆一様に振り向く顔立ちである。



「里賀。」


 優山は秋名に一言声を掛け、仮眠室へと姿を消した。秋名は一つ溜め息を吐くとマグカップを机に置き、自らも仮眠室へと歩みを進めた。










「松永、お茶冷めるんだけど。」


 眉を顰め、愚痴る。


「どうでもいい。」



 一人用のベッドに悠々と腰掛けている松永は、正しく王者。

 そんな態度の松永を見て、諦めたように秋名はもう一つだけ溜め息を漏らして、松永の隣にゆっくりと腰を下ろした。
















 松永が秋名を呼んで仮眠室に入る時。

 それは欲望を吐き出す為の行為の合図。


 暗に強制を含んだ呼び掛けにはもう慣れた。別に、秋名に断る権利が無かったわけではない。

 嫌だと言えば簡単に断ることは出来た。




 けれど、秋名が松永の誘いを断ることは無かった。



 言ってしまえば至極単純な理由。






 松永 優山を好いていたから。






 自分が断れば、松永は他の相手を見つけて欲望の処理をするだけだ。

 何せ松永は顔がいい。元々同性愛者が多いこの学園では、所謂そう言った目で松永を見る者は腐る程いる。秋名と同じ好意を抱いているかは定かではないが。。


 ファンクラブのようなものがあるくらいだ。


 松永はその中から適当に見繕ってしまえばいい。自分に純粋な好意を持っていない者を。

 何も秋名である必要は無かった。


 松永は自分に純粋な好意を持っている人間と一緒に寝ることはない。彼は後腐れのない関係しか持たない主義だった。




 だからこそ、秋名は断れなかった。

 自分が好意を寄せている人が、他人と交わるなど絶対に、あってほしくなかった。それも、自分のような感情すら持っていない人間と。




 ただの我が儘なのだけれど。



 だから、この行為に感情があってはならない。


 好意が松永に感づかれれば一切の繋がりを断たれてしまうから。





 あぁ、でも。




 この感情が伝わってほしいと思うのは、


 いけないことなのだろうか。





 行為中に流れる生理的な涙も、嗚咽混じりの微かに漏れる喘ぎ声も。

 自らの不甲斐なさと狡猾さを嫌悪しているから。


 行為に背徳を覚えたことは無い筈なのに、この溢れ出る感情は酷く醜悪に思えて仕方がない。




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