Black1

□Nasty Kisses
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「あ、あ〜吸血鬼ねぇ〜うらめしドラ!!ってやったよねずっと前ね」
「あはははっ!やってたやってた!懐かしいねー」

というわけで万事屋の銀ちゃんの寝室です。
今日は月も綺麗な日曜日。夕飯もとっくに食べて、新八も帰宅、神楽ちゃんも例の押し入れで爆睡、こっからは待ちに待ったアダルトタイムなのさ!(あ、いやアダルトって決してやらしい感じじゃなくて、ただ単に夜遅いから大人の時間だってだけで。お子様は寝なさい的な)
私は銀ちゃんのとなりに布団をひいて、就寝前の他愛もないお喋り。話題はさっきまで見てた映画の影響で何故かドラキュラ…吸血鬼の話。

「吸血鬼ってなんかかっこいーよねー。日本人じゃ絶対考えつかないよね」あたしはうつぶせに枕を抱き、両手で頬杖をつきながら銀ちゃんに言う。と、若干ホラー系だから怖いのか、引きつった顔で「そ、そーか?」って返される。

「だって銀ちゃん思わなかった?さっきの映画。あの吸血鬼の色気とオシャレさ!超かっこよかったじゃん」
「趣味わりーよお前…やめやめそんなん。ほら、もう寝るぞ」
「む。そんな怖かったの?…まいっか!」

私は促されるままに布団を被りなおす。銀ちゃんが電気のスイッチを切り、窓からの月明かりだけが部屋を照らし出す。

急にしんとする室内に、ぽつりと銀髪が呟く。

「…布団1枚で良かったんじゃね?」

私は思わず吹き出しそうになるのをなんとか堪えながら、「だーめ!ちゃんと1人で寝なさいっ」とにやけながらまた布団を被り直し、銀ちゃんに背を向けた。
そしてまた生まれる静寂に、私の意識は自然と宙を堕ちていく。




次に私が目を開けるのは―――

夢か現実かわからないような感覚に、違和感を見出だした頃。

「………」

まだ月明かりが照らす和室に、なにかの効果音が響く。
まだうつつで意識の定まらない私は目を開けられない。かわりに手を無造作に伸ばす。と、指にさら、と何かが絡み付いた。
はっと目を開けると、目の前に銀色の髪。

「………!?」

そして。

首元を駆け巡る激痛。

「…起きちゃった?」

不意に銀色がゆらりと頭を上げた。目が合って、叫びそうになる口を咄嗟に手で抑えた。

彼の口許を滴るのは―――

「お前の血、だよ?」

彼はニヤリと猫みたいな顔して笑う。

「…な…に?銀ちゃん?」
「ヤベーよお前の血…ゾクゾクする」
「待って!銀ちゃん、なにして…」
「なにって…わかるでしょ」

銀ちゃんは私の首筋を、つ、と舐めた。

「……ッ!」

身震いする身体。

「ヴァンパイアはヒトの生き血を吸うのが仕事」

そう言って笑う。
私はばっと手で首を押さえた。

「なにしてんの…!笑えないよ、こんなのっ!」
「なんで?吸血鬼はカッコいーんじゃなかったの?」
「それはっ…」

銀ちゃんは唇についた私の血を、ぺろっと舐め取りながら。見つめ合う形になる。

「……っ」

手にじわりと広がる、自身の血液。気持ち悪い。銀ちゃんは目の前でくすっと笑う。
そんな銀ちゃんが怖くて、咄嗟に神楽ちゃんに助けを求めようと口を開いた。

のに。

「あっ!」

その口は意図しない声を発す。銀ちゃんがまた私の首に噛み付いたからだ。その頭を退けようと必死に銀髪を掴むのに、身体中から血液が抜かれる感覚に、鳥肌が止まらない。

「……っやめ…銀ちゃ…っ」
「………」
「だ、だめ…っ、あ、」

視界が滲み始める――全身が震え出す。充満する血の匂い。輪郭を失う月明かり。光る、銀色。


そんな意識の後ろで。


「…あ…ッ!」


―――死神のようなヴァンパイアは、

ゆっくりと牙を抜いた。


「………」

飛びそうになる意識をなんとか繋ぎ止め、顔を上げた銀髪と目を合わす。

「…バカ…」

流れる涙を拭いながら呟くと、一瞬瞳を揺らした彼が私にキスを落とす。血の味がした。

そうしてまた、意識が堕ちて―――










朝日が昇った頃、ふっと目を覚ます。
横ではまだ銀ちゃんが規則正しい寝息をたてていた。

「………」

私は身体を起こし、自分の首筋にそっと触れた。かさぶたのような穴が2箇所。そして枕には、滴った血液が茶色く染みを作ってあった。

「……夢じゃないの?」

泣きそうになりながら1人そう呟く。と、となりの布団がもぞっと動く。私は驚いてちょっと後ずさった。

「………」
「………」
「………」

しばらく顔を見ていると、ぱちりと目を開く銀ちゃん。

「………はよ」
「…起きてたの?」
「ん」

銀ちゃんはむくっと起き上がり、ぼりぼりと頭をかいた。そして。

「昨日のアレな」
「…え、うん」

唐突にその話題。私はちょっと身構えた。

「実は辰馬が前に…お土産だっつって変な薬寄越してよ。それがコレ」

銀ちゃんは枕の下からいかにも怪しげな小瓶を取り出して、私に向かって投げた。瓶はVAMP!の文字でかわいらしいパッケージだった。

「飲むと一定時間吸血鬼になれるらしい」
「なにこれ…なんに使うの」
「アレだろ?そーいうプレイの一種だろ」
「なっ、ななななに考えてんの!?」
「バカッ俺じゃなくて辰馬に言え辰馬に!」

ちょっと顔を赤くする銀ちゃん。

「絶対使わねーと思ってたらお前が…吸血鬼カッケーとか言うから!」
「私のせいですか!」
「ったりめーだバカ!アレは間違いなく煽ってた!」
「知るかー!」

私はぽいっとその「VAMP!」を投げ捨てる。なんだか私まで顔が熱くなる。

「…た、確かに吸血鬼はかっこいい…けどっ、ゆうべの銀ちゃん怖かったよ」
「…悪ふざけが過ぎました」
「………」

うなだれる銀ちゃんの頭をぽんぽん、と優しく叩いて、「優しくしてくれるならまたやってもいいよ、吸血鬼」と言うと。

「…ったくMなんだから」

銀ちゃんは溜め息をつきながら、苦笑するように呟いた。

たまには危険な遊びも、いいね。










Nasty Kisses


―Play a nasty trick on―




20090604


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