『ゲームセット! ウォンバイ青学1年越前リョーマ! よって、優勝、東京青春学園!』
なんで?
なんで立海じゃない?
コートに響く審判の声が俺のドタマかち割るみたいに重くのし掛かった。最後のコールを聴いた瞬間、幸村部長が負けたってわかった瞬間、思い出したのは今までこなしてきた地獄みてぇな練習の日々だった。テニスが好きだ。勝つことが好きだ。弱い奴を片っ端からぶっ潰してくのが好きだ。でも、好きだからってそれが全部辛くないわけがなくて。
「………」
焼き殺す気かってくらいの灼熱の太陽の下、あっちで見たことないくらいはしゃぐ青学の奴らと誰か死んだんじゃないかと思うほど静かな立海のベンチ。気付いたら視界が滲んでて、気付いたら隣にいた柳先輩が俺の頭を撫でていた。
全てが終わったあと、湘南の海辺で一人たそがれる俺。
まだ現実とは思えない。部長が負けるなんて。立海が負けるなんて。俺達は誰だ?負けなんか死んでも許されねぇ立海大附属だぞ。
「ざっけんなよ、マジで……」
どんだけ辛い練習に耐えてきたと思ってる?
どんだけ厳しい環境でやってきたと思ってる?
日本全国探したって、俺らよりスゲーチームなんかねぇよ。あってたまるか。
なのにどうして。
「くそっ!」
傍に置いていたテニスラケットを持って、砂浜に叩き付けた。
「くそっ、くそっ、ちくしょう! ふざけんなよこの野郎!!」
生半可な気持ちでテニスと向き合ってきた訳じゃねぇんだ。
「ナメんじゃねーよこの野郎!ちくしょう、どいつもこいつもナメやがって!負けってなんだよ!俺達は優勝以外いらねーんだよっ…!」
こっちは今の自分の人生全部懸けてやってんだ。
なのに。
どうして。
「ちくしょうっ……!!」
悔しい、
って言うんだろうか?この感情は?
悔しいってこんな程度のもん?ちげぇよ?俺のは悔しいなんて言葉じゃ表せない。そんなもんじゃねーんだ。
ラケットで叩き付けた砂浜が抉れて、砂臭い。海の匂いがした。さざ波の音が鼓膜を通って響く。部長の顔が浮かぶ。真田副部長の顔も。部員みんなの顔が浮かぶ。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。
涙が止まらない。
この手で掴もうと追い掛けた理想たちは、
優しいふりをして俺らを迷わせる。
重い扉の向こう側の理想たちは、
辿り着くのか?と俺らに問い掛ける。
明日に向かって夢を背負う俺達に。
「……迷う暇なんか、ねぇだろ?」
俺が信じる道はいつだっていっこしかねぇんだ。
無意識に両手が砂浜を握り締める。
―――俺に見えてる視界の全てが、
俺の世界の全てなんだ。
それが俺が信じる、全てだ。
かっこよく綺麗にいたいだなんて思わない。
でも、足掻くとかもがくとかそんな言葉はキライだ。
俺は俺であればいい。立海を優勝へ導く。この、俺が。邪魔者が消えた次の立海で、俺が。
砂まみれの手で涙を拭った。
そして目を瞑って呟く。
祈りみたいに、刻み付けた。
20111109
中坊思考真っ只中な赤也が書きたかっただけ。
Thanx…『HIKARI』切原赤也