□あなたしかいらないと小さく口にしたその日に
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だからいやだったんだ。
もうこれ以上踏み込んだらきっと後戻りなんてできない。わかってた。そんなことわかりきってた。だからこれは不本意だ。買い物の帰りにたまたまこいつに会ったから、たまたま雨が降ったから、傘なんかお互い持ってなかったから、俺の家が近くにあったから、雨宿りでもって、こいつを家に上げた俺がバカだった。タオルを彼女の頭に投げると、こいつはそのまま俺にしがみつく。はなせよ、と肩を押し返しても、いや、と声を震わせる。だからいやだったんだ。これだからガキはダメなんだ。こうやって長年の俺の苦労を、我慢を、一瞬で水の泡にする。

「銀ちゃん、好き」

消え入りそうなか細い声を、俺の耳は丁寧にきちんと拾い上げた。聴きたくなかったのに。

「・・・・お前、なに俺の努力台無しにしてんのよ」

肩に置いていた手を下げる。行き場のない手は自らの左右に戻る。耳につく彼女の嗚咽。外の雲からの滴の音。ああ、今日は湿っぽくていけねえな。

「だ、って」
「そんなに俺に泣かされたいの」
「・・・・・」
「優しくできる自信、ねえよ」
「・・・・それでも、いい」

言い切る前に腕を彼女の背中に回す。細い身体を抱きしめた。強く、強く。
これだからガキはいけねえよ。












表面下にあった見え透いた感情なんてはぐらかしてはぐらかして一生気づかないフリでもしてようと思ったのに。気づかなければ君は幸せになれたのに。どうして口にしてしまうのかな、ったく、ガキはこれだからいやなんだ。大人になって消えていくまっすぐな想いとか、もう眩しすぎて直視できないとわかっていたんだけれど。





20080815



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