□貫け!
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こんな日に限って朝礼で貧血で倒れ、昼まで保健室に拘束されて。お昼ご飯を少し食べて体育を見学して進路指導のLHRが終わって進路補習があって。とっぷり暮れた10月10日。

「・・・・っは、はあっ」

さっきまで虚弱な空気醸し出してたくせに、たった今わたしは屋上までの長い非常階段を駆け登っている。「・・・っあ、はあっ」女らしからぬ息切れで。だってさっき廊下でちょうど見てしまったんだ。わたしの大好きな銀八先生が、遠くでヘルメットを被ってスクーターに乗ろうとしてるのを。

バン!

不用心な銀魂高校は、屋上が幸か不幸か開放されている。なんだそれ、自殺推薦校か。我ながらとんでもない環境にいたもんだ。

「――――先生!」

わたしは肺に許される限りの酸素をつめて一斉に吐き出した。まだ焦点の合ってない黒瞳が見慣れた銀髪を探す。「――――」すると遠くでキッとブレーキの音。音のほうに顔を向けるとはるか先、向こうの校門の前でスクーターに乗った国語教師が屋上を見上げているのを見つけた。
聞こえたんだ。
「・・・・っ」何故か滲む視界に、オレンジ色の夕陽が眩しい。10月10日。Z組なんてかかわったことがない。無論その担任にも。こんな地味で目立たない自分が今一体どれだけ相手に迷惑をかけているかなんてわからないし考えたくもないけれど。わたしはあなたが好きだから、かなわない想いでもこうやって口にする。あなたがわたしに気づいていないとしっていても。だって今日はほかの364日、どれをとってもかえられない1年に1度の大切な1日なんだから。
最後まであきらめない。

「先生、お誕生日おめでとう!」

風が吹いてわたしの雫をひとつさらっていった。この風に乗せてわたしの想いは多少なりとも届いたのだろうか。オレンジ色、遠くで銀八先生が小さく笑った気がした。俯けばすぐに聞こえるスクーターのエンジン音。恋とは想い続けるだけでは成果は得られない。有言実行、ケースバイケース、試行錯誤・・・とにかく自ら動いてみないことには何も始まらないのだ。












(ありがとうもごめんねも全部飲み込んでただひたすら君だけを想う。)




20081117

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