ポケモン

□過去が彼なら今は僕
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夜眠るのは人間だけじゃない。野生のポケモンだって殆どが日中を活動時間としている。
僕もその一人。その日だって僕はいつも通り家で弟達と寝ていた。

「…スー、スー」

規則正しい寝息が響く家の中に“それ”は入り込んだ。

「ピカチュウか」

僕は知らぬ間に“それ”に連れて行かれた。



次に僕が目を覚ました場所は見知らぬ場所だった。真っ暗で何もない、視覚も聴覚も嗅覚も触覚も味覚も…五感の全てが感覚を失くしたような、真っ暗な空間だった。

どうして自分がそんな場所に居るのか、そこが何処なのかさえ解らなくて僕は急に怖くなった。いつも一緒に居た兄弟も友達も誰一人居ない寂しさが何より恐かった。


「行け、ピカチュウ」

そんな声がしたかと思うと僕は何処かの街に居た。その時の僕には解らなかったけど僕が居たのはモンスターボールの中だったらしい。

…あとから仲間達に訊いた話だけど本来ボールの中は居心地が良くって外の様子もそれなりに解るものだって言ってた。きっと僕が入っていたのは改造ボールだったんだと思う。でもこの改造ボールのおかげで僕はモンスターボールに対してトラウマができた。今でもボールに入るのは嫌いだ。

「ピカチュウ、10万ボルトで片を付けろ」

その時の僕に命令してきた“それ”はきっと僕を改造ボールで捕まえたトレーナー。けれどその時の僕には10万ボルトなんて使えなかったし、もし使えたって僕を無理矢理捕まえたような“それ”の言うことを聞く気なんか全く無かった。

「ビィカ」

僕は逃げだした。けれど僕を捕まえた“それ”は僕が逃げることを許さなかった。“それ”は僕をボールに戻した。

「使えない奴。こんなの捕まえるんじゃ無かった」

その声だけはボールに入る直前の僕にも聞こえた。僕は“それ”にこれ以上ない憎悪を感じた。今でもその時ほどの憎しみを感じたことなんてない。
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