小話

□拍手おまけ
1ページ/1ページ






待ち合わせは6時。
間違いないよな。
オレは腕時計を見た。6時半。30分過ぎてる。
まわりを見回した。待ち人はまだ見えない。

駅前広場は仕事が終わった人や今から遊びに行く人やその他大勢でごった返している。雑踏に埋もれそうになりながら街頭に身を寄せてため息をつくオレの前を、たくさんの人が通りすぎて行った。

30分も待つなんて、オレもたいがいお人好しだ。もしかしたら仕事が終わらなかったのかもしれないし、予定が入ったのかもしれないし、………来たくなくなったのかもしれないし。
またため息をついて時計を見る。あと5分待って来なかったら帰ろう。
あと5分。
何回そう思ってここから動けずにいたんだっけか。

もう、オレなんかどうでもよくなったのかもしれない。
待ち合わせたこと自体、忘れちゃってるのかも。

暗いことばかり頭に浮かんでしまって、落ち込む気持ちを止められない。

早く来てよ。

そう思ってまたまわりを見回したが、やっぱりいない。知った顔なんてまったく見えない。

時計を見れば、もうすぐ7時になるところだった。

「………帰ろうかな」

オレの家は知ってるはずだ。来てオレがいなければ、家に来るだろう。
俯いて歩き出そうとしたオレの肩を、誰かが強く掴んだ。
驚いて振り向くと、いつもの笑顔を顔に貼りつけた黒髪の男が立っていた。

「私以外の男を待ってそんな寂しげな顔をするとは、妬けるな鋼の」
「なんだよあんた。なにしに来たんだよ」
オレはがっかりして俯いた。ようやく来たかと思ったのに。やっぱりオレ、忘れられてんのか。
掴まれた肩をふりほどいて、オレは歩き出した。慌てたように後ろから准将の声がする。
「どこへ行くんだ、鋼の」
「うるせぇ。帰るんだよ」
オレは俯いたまますたすた歩いた。そう言ったところで、帰る先はこいつの家なんだけど。
後ろから追いかけてきた靴音が横に並んで、それから手が肩に回されて引き寄せられる。

「なにすんだ」
「待ち人は来ないよ」
「は?」
「来ないよ。来れないから伝えてくれと電話があったんだ」

オレは准将を見上げた。准将はオレの肩に置いた手に力をこめて、伝えに来るのが遅くなってすまないと笑った。
「なんで?あいつ、なんかあったの?」
「仕事が忙しくて休みが取れなかったんだそうだ」
「…………そっか」
あからさまにがっくりしたオレに、准将は眉を寄せた。
「だからね鋼の。私以外の男のことでそんな顔をしないでくれ」
「オレの勝手だろ」
「そうはいくか。きみは私の恋人なんだから、私が嫉妬するのは当然だろう」
「………あんたバカ?アルに妬いてどうすんの?」

体を取り戻して数年経った。オレは東部でこいつの傍にいて、弟はセントラルで働いている。

オレはまたため息をついた。
「せっかくアルと久しぶりに会えると思ってたのにな」
「だから!きみは私が嫉妬するのが面白いのか?そんな顔をするなと言ってるだろう!」
准将は苛々した声で、オレの体を強く抱きこんだ。
「ちょ、人が見てるって」
慌てたオレがそう言っても、准将は知らん顔だ。
「たとえ弟でも私は嫉妬するんだ。覚えておきなさい」
「あー、わかった!わかったから離せ!」
耳元で囁かれるのに弱いことを知っていてそんなことを言う恋人に、オレは仕方なく折れた。

そんなふうに妬かれるのはなんだか嬉しい。
さっきまでの落ち込んだ気分なんかどっかへ行ってしまって、オレは真っ赤な顔のままくすくす笑った。

「では、私に妬かせた罰だ。食事して帰ろう」
「なんだそれ」
全然罰になってねぇぞ。そう言ったオレの唇に掠めるみたいなキスをして、准将はにやりと笑った。
「もちろんそのあとはきみがデザートだ」
「な…………」
口を両手で押さえて黙るオレに、いつまでたっても可愛いなぁなんて微笑んで、准将は歩き出した。抱かれたまんまのオレもついて歩き出した。

ずっと一緒だった弟が、オレから離れて遠い街で一人で頑張っている。

会えなかったのは寂しいけど、忘れられてなかったんならいい。またそのうち会えるだろうし、仕事に打ち込むのはいいことだ。今回は仕方ない。

そう考えていたら、准将がまたぼそりと呟いた。
「またそんな顔をする。私は本気で妬いてるんだがね、鋼の」
「どーしようもねぇな、あんた」

アルはアルで頑張ってるんだ。オレもこいつの傍で頑張ろう。
やきもち焼きで独占欲が異常に強いけど、でも愛してくれてるから。

「なぁ、アルほんとにあんたに電話して伝言頼んだの?」
「………中尉にかかってきたんだ。それを聞いて、私が行くと」
「ゴネたんか」
「……………………」

目を逸らす大人にマジでバカだと笑った。

まるで最初から待っていたのはこいつだったような、そんな気分で。

寄り添って笑いあって、そのまま夕暮れの街に歩いて行った。











END

……アル、なんの仕事してるんだろう。
てかラスト、締まらないとゆーかなんとゆーか。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ