小話

□拍手おまけ
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好きだ。

付き合ってくれないか。



オレもお年頃なわけだし、オレがそうならアルもそうだ。
いつか好きな人ができたら、カッコつけて花束かなんか持ってこんな言葉を言ってみたい、とか二人でたまに話をしてた。
あのタラシの大佐みたいに、肩を抱いてデートとかしたりして。
別れ際にはキスとかも。

そんな夢はオレくらいの年の奴ならたいていみんな見るはずだ。
オレとアルも例外ではなく、どんなふうなシチュエーションで言おうかとか花はやっぱりバラだろうとか、半分ふざけて半分本気で言ったりしてた。



が。



「憧れのセリフだったのに」
唇を尖らせて言うオレに、タラシの大佐は怪訝な顔をした。
「せっかく、未来の恋人のためにとっといたセリフだったのに」
執務室のソファーで膝を抱えて落ち込むオレに、ますますわからんという顔で大佐はオレの隣に座るアルを見た。
「鋼のはなにを言ってるんだ?」
「ああ、さっきのセリフのことですよ」
アルは肩を竦めて苦笑した。
「好きな人ができたら言いたいセリフNo.1だったから」
「………はぁ」
大佐はわかったようなわからないような顔をする。
「あんたは毎度毎度あちこちの女に言って歩いてて、すっかりお馴染みのセリフかもしんないけどさ」
オレはイラついて大佐を睨んだ。
「オレはまだそーゆう経験ないから。だから、そのセリフは大事だったの!軽く言うセリフじゃねぇの!わかる?」
あんただってオレくらいの年の頃があったんだろ?想像できねぇけど。
そう言ってやったら、大佐はちょっと考える仕草になった。顎に手を当てる、見慣れた仕草。オレがやっても全然なのにこいつがやるとサマになる。大人と子供の違いってやつか。オレはさらに機嫌が悪くなった。
「兄さん、それは八つ当たりっていうか意味わかんないよ」
アルが呆れたように言った。
「だいたい大佐の昔と兄さんを比べてもねぇ。大佐って昔からモテたんでしょ?」
アルの問いかけに大佐が曖昧に頷く。それはアレか、オレがモテないと言いたいのか。
「違うよ、大佐と自分を同列に並べちゃ失礼でしょって言いたいんだよ」
どういう意味だ。
「そう言うところをみると、アルフォンスは鋼のとは違うのか?」
大佐がアルを見た。なにその兄が弟と恋バナでもしてるみたいな微笑ましげな目は。アルの兄はオレなんですけど。
「え、いやー大佐ほどじゃないですよ」
なにその打ち明けたそうな照れ笑いは。おまえいつもオレには上から目線なくせになんで大佐にはそんなに弟っぽい感じなの。
「ほう。まぁきみは性格も優しいし、男前だからね。モテるだろうね」
なにその自慢の弟を見る年の離れた兄みたいな目。
「やだなぁ、そんなことないですよ。でも昨日、花屋の女の子からお花もらっちゃって」
なにそれ初耳。これからデートって、オレ今初めて聞いたんですけど。
「付き合うなら不誠実な態度はダメだよ。それとあくまで紳士的に…」
不誠実の塊がなんか言ってますけど。なんでアル素直に頷いてんの。
「じゃ、ボクそろそろ待ち合わせだから」
またね、とオレじゃなく大佐に手を振ってアルはさっさと出ていった。オレの立場はどこ。
「アルフォンスもなかなかやるなぁ」
にこにこして見送る大佐は兄を通り越してついに父親の境地に達している。慈愛に満ちた笑顔は、オレを見てすっと消えた。
「で、鋼の。さっきの話だが」
「うるせぇバーカ」
オレはソファーに丸まった。

「バカはないだろう!返事は!きみの返事を待ってるんだぞ私は!」
「うるせぇ!ひとの憧れのセリフを横取りしといて、その上返事とか図々しいっつーの!」
「そんなん知らん!ていうか憧れならいいじゃないか、言ってもらえたんだから!」
「言われたかったんじゃねぇ!言いたかったんだ!」
「じゃ言いなさい!聞いてあげよう!」
「なんでてめぇに言わなきゃいけねぇんだよ!」


憧れだったのに。

スーツかなんか着て花束持って、片手を差し出してキメ顔で。

「付き合ってくれないか」

そう言いたかったのに。


なんで執務室で軍服着て書類に囲まれた男の上司に、おしゃべりのついでみたいに弟の目の前で言われなきゃなんねぇの。



「シチュエーションが問題だったんなら、今夜やり直すから食事にでも行こう」

スーツ着て花束持って行くよ。キメ顔は鏡で研究するから。

違う。そうじゃない。



早速鏡の前でキメ顔の探求を始めた大佐にため息をついて、オレはますます小さく丸くなった。











END,

アルはきっとタラシになると思うんですよね。

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