小話3
□煙の行方
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窓の形に切り取られた青空を眺めて、オレはため息をついた。
見慣れた部屋は白くて殺風景で、いつまでたってもどこかよそよそしくて馴染めない。
昼間はまだ見舞いも来るし、可愛い看護師さんが世話をしに来てくれるから気が紛れるが、夜は最悪だ。
動かない足を拳で叩いてみた。振動は伝わるが痛みはまったくない。
友人達には強がりを言って笑って見せるけど、実際この足がまた動いて以前みたいに歩いたり走ったりできるようになるとは、とてもじゃないけど信じられなかった。
「少尉!花、花瓶にいけとくね」
エドワードが見舞いの花束と花瓶を持って病室を出て行った。
「あ、ついでに売店行ってタバコ買ってきてー」
エドワードの背中にそう言うと、わかったという印に片手を振ってくれた。
大佐と一緒に戦ったあの日、オレは下半身の自由を失った。
そいつはオレのドジだ。誰も責めるつもりはないし、責める資格もない。
単にオンナ相手に油断した。それだけだ。
なのにお人好しのエドワードは、なぜか罪悪感に苛まれているらしい。
自分達の戦いに巻き込んで怪我をさせたと、本気で思っているようだ。
だから時間があれば必ずここに来て、色々世話をやいてくれたりおつかいに行ってくれたりする。
それはそれで嬉しいけど。
人造人間とか賢者の石とか、錬金術の世界はオレにはちんぷんかんぷんだ。元々頭脳派じゃないし、興味もなかった。
なので、そういう意味では確かにオレはあいつらの戦いに巻き込まれたのかもしれないが。
上司の指示のもとで作戦行動を取っていて戦闘になり、負傷した。
これはオレにとっては仕事の一環であり、負傷は間抜けな自分のせいだ。
エドワードのせいじゃない。なんの関係もない。
なのにそう言ってやれなくて、苦しんでいるのを知っていてまだ黙っている。
ずるいよなオレ。
エドワードが来てくれるのが嬉しいから、二人でいられる時間が惜しくて。
あいつの気持ちを利用している。
「少尉、なんか他にほしいもんある?」
エドワードが花瓶とタバコを抱えて戻ってきた。
「いんや。そんなに気ぃ使わなくていいぜ」
笑ってそう言うと、エドワードも笑顔を返す。
けど、それはいつも苦しげに歪んで見えた。
エドワードが帰って一人になると、いつも窓を見つめてしまう。
衝動的にそこから飛び降りたくなるんだ。
苦しそうなエドワードが嫌で。
そうさせる自分がもっと嫌で。
とっとと楽になれたらどんなにいいか知れないのに、一人じゃ窓に近寄れもしないなんてバカみたいだ。
シーツの下の自分の足を、目が痛くなるまで睨む。
「………なんで動かねぇんだよ……」
言葉にするとますます嫌になるのに、口から勝手に零れてくる。
つらい。悔しい。そんな言葉は出ないのに。
ただ動かない。そこにあるだけ。
それがこんなにムカつくなんて、思いもしなかった。