小話

□瞳の中に閉じ込めて
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朝の日差しで目が覚めて、両側からオレの体に手が絡まっているのに気づいた。
右を見たら准将がいて、左側には少尉がいる。オレの大好きな黒と青の瞳は閉じられていて、二人ともすやすやと健やかに眠っていた。
慌てて時計を見て、それから思い出す。今日は二人とも休みなんだった。
揃って休みなんて滅多にない。なにか特別なことでもない限り、二人の休みは別々だ。なんかあったんだろうかと考えたが、軍属なだけで軍人ではないオレにわかるはずがないのでやめた。二人とも、仕事とプライベートはきっちり分ける主義だ。家で軍の中のことを話題にすることはまずない(将軍たちの悪口や噂話は別だ。おかげでオレは家に居ながら、どの将軍がヅラでどの将軍が痔の手術をしたかとかの知らなくていい情報をたくさん得ることができている)。
とりあえず朝食でも作るか。オレは起き上がろうともぞもぞした。起きるには二人の腕が邪魔だ。胸と腹の上に乗ったそれらの障害物を排除しなくては、オレは朝食にありつくことができない。
まずは准将の腕を掴んでみる。書類で鍛えた腕は太くて、片手では無理。なので両手で持ち上げる。
ぽいっと捨てて、次は少尉の腕だ。こっちは筋肉の塊みたいで、重い。准将のも筋肉はついているが、少尉のは質が違うようだ。固くて重い。腹の上という位置や布団が乗ってるという事情もあって、なかなか持ち上がらない。
ぐぐぐ、と一人で頑張って、どうにか腹の上から落とした。ふぅ、これで動ける。
よいしょと起き上がったら、さっき捨てたはずの腕が両側から伸びてきてオレをベッドに押し倒した。
「どこに行く気だ?」
准将が目を薄く開いていた。
「冷てぇじゃん、一人で抜けようとかさ」
少尉もまだ覚めきらない目でオレを見ている。
「だって、朝メシ…てかいつから起きてたんだよ」
「腕をごそごそされたら、嫌でも目が覚めるだろ」
ふぁ、とあくびをして、准将が起き上がった。珍しい、今日は一番にベッドから出るつもりなのか。
と思って油断していたら、少尉に腕をとられて押さえられた。はっとしてそっちを見ると、嬉しそうな青い瞳とかち合った。
「休みだし、ゆっくりしようぜエド」
「そうそう。慌てて起きる必要はないよ」
准将も体を起こしたままオレを見る。黒い瞳になにか危ないものが見えた気がして、オレは飛び起きようとした。
できなかった。
あとはもう、朝っぱらからなし崩しというやつだ。







ベッドにへたりこんで、時計を見るともう昼前。
准将も少尉も、上機嫌で服を着替えている。
「鋼の。出かけるから服を着なさい」
「……どこへ?」
聞いてない。オレは起き上がろうとして、またベッドに倒れこんだ。だるくて動くのも嫌だ。
「行ってらっしゃい。オレ留守番する」
「ダーメ」
少尉がオレの服を持ってきた。なにがなんでも連れて行きたいらしい。
「動けねぇんなら、抱っこしてやろうか?」
「………しなくていい」
仕方なくオレは服を掴んだ。

外へ出て車に乗せられて、どこに行くとも言われないまま走り出した。窓の外を流れる景色を見ていると、どうやら郊外へ向かっているらしいことがわかる。
上機嫌だった二人はいつの間にか黙っていて、少尉はただ前を見てハンドルを握るだけになっていた。准将はオレの腰に手を回し、外を眺めている。
「どこ行くの?」
居たたまれなくて何度も聞いたけど、そのたび曖昧にはぐらかされた。ただまっすぐ走る車に、はっきりした目的地はないのかもしれない。

なんとなく、空気が重いと思った。なんだか二人とも、なにか言いたいことを言えずにいるような顔をしている。
そういえば、最近は二人とも帰りが遅くなることが多かった。別にお酒の匂いもしないし香水臭いわけでもなく、浮気って感じじゃなかったから黙っていたけど。いつも通りに笑って、いつも通りに優しく抱いてくれる二人に安心しきっていたのは確かだ。

なんとなく。

この車がどこにも着かなければいいのに、なんて思った。




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