リクエストとか

□だって好きだから
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※まりえど様より前回いただいたリクエストで書いた「幸せになろう」の続きとなっております。






エドワードがロイと結婚してからあと、アルフォンスは入隊した。国家錬金術師の資格を得ていたので、地位は少佐。北の女王のもとにしばらくいて、それから異動で東方司令部に配属になった。
「よろしくお願いします」
敬礼して微笑むアルフォンスに、旧知の仲間が拍手した。
「よろしく!歓迎すんぜ!」
「さっそく歓迎会だ。誰か店予約しろ」
「久しぶりね。よろしく!」
口々に言って握手を求めてくる仲間たちに頭を下げて笑顔で答えながら、アルフォンスは司令室を見回した。
東方は今ロイが最高司令官になっていて、他には将軍位はいない。佐官も数人いるだけ。アルフォンスは着任と同時に、ここにいる大多数の軍人たちの上司になる。
他の軍人たちが何人か、新しい上司になるアルフォンスを見つめていた。皆不安と期待が入り混じった表情だ。それへ安心させるように微笑んで、アルフォンスはホークアイに向き直った。
「今日は准将はお出かけですか?」
「あ、そうだったわ。ごめんなさいね」
ロイの執務室をちらりと振り向いて、ホークアイは眉を寄せて申し訳なさげな顔をした。
「准将は今日はお休みなの」
「珍しいですね、平日に」
「ええ。もう一年前からこの日を休むと申請されてて」
ホークアイは頷いてカレンダーを見た。
「結婚記念日なのよ」
「ああ、そっか」
アルフォンスは納得して頷いた。
「もう一年経ったんですね」
「早いものよね」
エドワードがワイヤーで宙を飛んだ結婚式から、もう一年が経つのか。アルフォンスは感慨深くカレンダーを見た。今日の日付に赤い丸が描かれているのは准将の仕業だろう。楽しみにしていたらしい。ということは、うまくいっているのだろう。
「どっちにしろ今夜、兄さんちに挨拶に行く気だったんです。休みに申し訳ないけど、ついでに准将に着任の挨拶もしてきますね」
「そうね。家は決まったの?官舎?」
「いえ、アパートを借りまして。よかったら遊びに来てください」
にこにこと話すアルフォンスに、ブレダたちとなにやら相談していたハボックが近寄って肩をぽんと叩いた。
「おまえ酒飲めるんだろ?歓迎会は居酒屋でいいよな」
「飲めますけど……兄さんのところに寄るから、少し遅くなりますよ」
では車を出そう、連れてってやるよ。ハボックがそう言ってアルフォンスが頷き、その夜の予定が滞りなく決まった。



ロイの家は郊外の住宅街にある。控えめな大きさの家は司令官の自宅にしては小さいが、二人で暮らすには充分といったサイズ。中古で購入したというその家は、ほどよく古びて居心地がよさそうだった。
その玄関で並んで立ったアルフォンスとハボックは、呼び鈴を鳴らしてドアが開くのを待った。ほどなくぱたぱたと足音がして、中から明るい声がしてくる。
「はーい。どちらさん?」
相変わらず、兄の声は本当に声変わりしているのかどうか疑問だ。低めの女の子の声のようにも聞こえるそれに苦笑して、アルフォンスは名前を名乗った。
「え!アル?まじ?」
がちゃがちゃと鍵を開ける音。それからドアが大きく開かれ、一年ぶりに見る兄が目を真ん丸にしているのが見えた。
「久しぶりだね、兄さん」
「アル!」
すっかり背が高くなってしまった弟にしがみついて、エドワードが歓声をあげた。何事だと奥からロイも出てくる。
「アルフォンスか!久しぶりだな」
「准将、お久しぶりです。お元気そうでよかった」
「まぁ、入りなさい。そういえば今日だったか?」
「はい。皆には挨拶しました。今から歓迎会をしてくれるそうで」
「歓迎会?」
顔をあげるロイに、ハボックが笑ってみせた。
「皆喜んじゃってさ、すぐ話決まったんスよ。だからここへは挨拶に寄っただけで、あがる暇はねぇんス」
なんだ、冷たいな。呟くロイにアルフォンスが苦笑した。
「すいません。また改めてお邪魔させていただきます」
「え?アル、帰っちゃうの?」
驚く兄が見上げてくる。まったく、この人はいつになったら年相応になるんだろう。なんだか昔旅をしていた頃と全然変わってないみたいな気がする。
「ごめんね兄さん。もう皆待ってるから」
「仕方ねぇな。またゆっくり来いよ、明日とか」
「ははは」
まだまだ片付けが終わらないアパートを思って困ったように笑うアルフォンスに、ロイが優しく微笑んだ。
「では、明日司令部で会おう。仕事の話もしなくてはな」
「はい。よろしくお願いします」
敬礼するアルフォンスに、軍人らしくなったなとロイが笑う。
「アームストロング少将は、とても厳しい人ですから」
「なるほど」
アルフォンスは兄夫婦に手を振って、乗ってきた車に戻った。名残惜しげな顔の兄に少しだけ後ろ髪を引かれる思いで車のドアを閉める。

小さな家には料理の香りが漂っていた。暖かくて、優しい雰囲気。母が生きていた頃のリゼンブールの家のようだ。

「兄さん、幸せなんだな」

呟くと、ハボックが頷いた。

「准将も幸せそうだよ」

「よかった」

「そうだな」

なんだか安心して、アルフォンスは笑顔で皆が待つ居酒屋へ向かった。



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