リクエストとか

□これからもずっと、よろしく
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「おはよう、エドワード」

朝の日差しが差し込む寝室のベッドの中で、隣に寝ている恋人の頬をつついて囁いた。
ゆっくりと開く瞼から覗く、煌めく金色。
「………おはよ」
こちらを見て頬を染め、小さな声で呟く可愛い恋人。

ロイは、朝のこの瞬間がとても好きだった。








「というわけで、今朝も絶好調だ」
にこやかに席につくロイが声高らかに宣言すると、それはよかったですねと副官が書類の山を持って来る。
「今日はこれだけか?」
「ええ、今のところ」
確認するなり、ロイは猛然と仕事に取りかかる。終われば愛しい恋人を連れて家に帰れて、そのあとは楽しい色々が待っている。この状況で張り切らずにいつ張り切るんだ。

がりがりと力強くペンを動かすロイを見て、ハボックが肩を竦めた。
「すげぇな、あれ」
「愛の力って偉大なのね。実感したわ」
感心したようにホークアイも頷いた。その傍で書棚に向かって資料の整理をしていたエドワードは真っ赤な顔を隠すように俯いている。
「ははは、羨ましいなら君たちも早く恋人を見つけなさい」
ロイは書類を捌きながらもちゃんと会話を聞いているらしい。
「ちぇ。オレの好きな奴はあんたがかっさらっちまったって知ってるくせに」
ハボックはまだ未練があるようだ。顔をあげられないエドワードを見下ろして、その肩に手をかけた。
「な、あの変態に飽きたらオレんとこ来いよ。大事にするからさ」
「ハボック!貴様、エドワードと直接話をしてはいかんと言っただろう!」
ロイがデスクから怒鳴る。
「話をしたいときは私を通せと言ったはずだぞ!」
「んなまどろっこしいことできるわけねぇだろ!だいたいまともに言葉を伝えてくんねぇくせに!」
「なぜ貴様の戯言を可愛いエドワードの耳に入れなくてはならん。彼は私の愛の囁きだけ聞いていればいいんだ」
「あんたの囁きなんて聞かせたらエドが汚れる」
「どういう意味だ!ていうかおまえこそその手を離せ!私のエドワードが穢れる」
言い争う二人に、エドワードが涙目になってホークアイを見上げた。だが、ロイの仕事は滞りなく進んでいて最近は残業もない。故にホークアイに無理に争いを止めなくてはならない理由はない。
「大変ね、エルリック少尉。同情するわ」
「………同情しなくていいから、助けてください……」

元は見合いを断るための偽装同棲だった。それを提案したのはホークアイだ。思いついたときには最良の案だと思ったのに。
まさか、偽装同棲の相手にロイが本気で惚れてしまうとは思わなかった。

見合いは破談になり、もう同棲する必要はなくなったというのに、ロイにはエドワードを手放す気はまったくないらしい。本気で同棲を始めてから1か月。エドワードの指にはロイとお揃いの指輪がはめられていて、そして毎日この状態だ。いつ式を挙げようかと浮かれてカレンダーを眺めるロイに呆れはするが、以前女タラシで名を馳せた男がすっかり遊びをやめて仕事もサボらなくなったことに感動もしていた。本気の恋愛はこうも人を変えるものかと驚いて、そして安心した。自分の提案によって人生を狂わされ変態にとりつかれてしまった可愛い部下にどう謝ればいいのかと悩まなくてすんだし、その可愛い部下の存在がロイを癒し仕事に邁進する原動力になるならこれ以上のことはない。

あとは、あの変態が可愛い部下を泣かせることのないよう、見張るのが自分の仕事だ。

ホークアイはにっこり笑い、エドワードの肩からハボックの手を払いのけた。
「お茶でも淹れてきましょうか。行きましょう、エルリック少尉」
「はい!」
この場から逃れられるならなんでもしますと言いたげな勢いで、エドワードが元気よく返事をした。
「大佐、コーヒーでよろしいですか」
職場ではあくまで部下でいようとするエドワードに、職場でもあくまで恋人でいようとするロイがにこにこと頷いた。
「きみが淹れてくれるなら、なんでもいいよ」
「………………えーと、ハボック少尉はなににする?」
無視の方向でいくことにしたらしいエドワードは同僚を見上げた。
「オレにも淹れてくれんの?優しいなぁエド。いい嫁になるぜ、オレの」
あくまで同僚でいようとするエドワードに対し、あくまで諦めるつもりのないハボックがにこにこと頷く。
「……………水でいいよね」
エドワードはそっちも無視することにしたらしい。くるりと振り向いて上司を見た。
「オレ、行ってきます」
「いいわ、私も行く。昨日美味しいクッキー買ってきたのよ。一緒に食べましょ」
「ありがとうございます!」
ホークアイもエドワードを可愛い部下以上に気にいっている。そして、エドワードはそれは無視する気はないらしい。

取り残された男二人は、それからもしばらく仕事を忘れて口喧嘩を続け、戻ってきたホークアイの新しい銃の試し撃ちに的として協力することになった。




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