リクエストとか

□小悪魔なきみに恋をする・7題
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*1.わかっていたのに虜になった







少将に昇進して中央に異動してきて、半年。

なんとか慣れた。仕事はまぁ順調。部下たちも馴染んだ様子で、うまくいっているほうだろう。

ひとつだけ、問題があるけど。

「うっす少将。これ、夕方までにサインしといてよ」
ドアをいきなり開けて入って来るなり上官にタメ口をきくのは、中央に来てから私の下についた新しい部下だ。地位は少佐。
「ノックはどうした」
目線もくれずに低い声で言ってみたが、彼には通じない。ああ、忘れてた。軽く言われてため息をつくと、デスクに書類がぽんと置かれる。
「ヨロシク」
つい顔をあげてしまい、目が合った。彼はにっこり笑って手を振って部屋を出て行く。開けたドアを閉める前に誰かから声がかかったらしく、明るい声で返事をするのが聞こえた。それからぱたんとドアが閉まり、部屋に静寂が戻る。

問題、は今の部下だ。
去年、まだ15で国家資格をとった天才錬金術師。中央に籍をおいて仕事をしていたらしいが、私がこちらへ来たときに正式に軍に入隊して部下になった。
大層優秀な頭脳と、大胆すぎる行動力。腕も立つし頭も切れる、ありがたい部下ではある。元からいた他の部下たちともすぐに打ち解けて仲良くなったし、敬意の欠片もないが私との関係も良好だ。

問題なのは、彼の容姿と性格だった。
16にはなっているのだろうが、とにかく小柄な彼は年よりもずいぶんと幼く見える。軍服がぶかぶかなのも手伝って、細くて華奢な体をますます小さく見せているようだ。長い金髪は男の髪にしては滑らかできらきら輝いていて、それを後ろでひとまとめに三つ編みにしている。色白な顔に桜色の唇、珍しい金色の瞳は大きくてちょっと吊りがちで、気は強そうだがとても可愛らしい。男だとわかっているのに、誰もが目を奪われる。女でもあれだけの美貌はそうはいない。
彼はそれをよく知っている。自分の容姿が優れていることを熟知していて、それで軍人たちを惑わせていることも承知している。どうやらそれを楽しんでいるようで、決まった恋人などはいないと言うが浮いた話が尽きることがなかった。
思わせ振りな態度や言葉で他人が浮かれたり落ち込んだりするのが面白いらしい。よく言う、小悪魔というやつだ。
最初はかなり呆れたし不快に思ったが、一応彼なりに弁えているらしく一緒に働く仲間たちの中ではそんなトラブルも起こさなかったし至って普通に仕事をしてくれるので、プライベートなことではあるし口出しすることもしなかった。私もプライベートを言われればあまり褒められたことはしてこなかったので、そこはお互い様かもしれない。

だが。

だが、真の問題はそこではない。

この私が。さんざん浮き名を流して、アメストリス中の女性を魅了してきた、ロイ・マスタングが。

あんなガキに、不覚にも惚れてしまうとは思わなかった。




可愛い顔をしているとは思っていた。時々見せる年相応の笑顔が好ましいとも思っていた。
だが、まさかと思っていたのに。彼は男で、私にはそういう趣味はない。彼に夢中になった挙げ句恋人や妻を失った男たちを心の中でバカだと笑っていたのに。

彼が入ってきて少し経ったあるとき、街を女性を連れて歩いていた。
たまたまそのとき、彼に会った。彼は一人だったが、聞くと誰かと食事をしたあとホテルに誘われたから逃げてきたのだと明るく笑った。
「一人で大丈夫なのか。送ろうか?」
思えばそのセリフを口にしたとき、すでに手遅れだったのだろう。傍らにいた女性の存在など頭から消えてしまっていたのだから。
「なに言ってんだ。あんたデート中なんだろ?」
彼はくすくす笑って女性をちらりと見て、それから私に身を寄せて声を潜めた。
「けどさぁ、意外だな」
「なにが」
「あんたって、もっと面食いだと思ってたよ」
彼は悪戯っぽく微笑んで、金色の瞳を真っ直ぐに私に向けた。
「あれなら、オレのほうがかなり可愛くねぇ?」

なにか反論するべきだったのだろう。だが、私は言葉に詰まった。
彼は笑って冗談だよと言い、連れの女性ににっこり笑ってから雑踏に紛れてどこかへ消えた。

そのあとは、ぐだぐだだった。なんとか言い訳をして女性を家の近くまで送っただけで、そのまま帰った。女性は文句も言わず、たださっきの子は何者なのかとそればかり聞いてきた。やきもちではなく、どうやら彼の笑顔に一発でまいってしまったらしい。彼は男女関係なく虜にしてしまう魅力を持っている。




あれからだ。
どんな美人も、彼と比べてしまう。そして、ひどく色褪せて見えてしまう。
不可解なこの事態に自分でも散々悩んだが、得た結論はひとつだけだった。

彼はモテる。ああいった意味深な言葉遊びは彼にとってはいつものことで、私に気があるわけではない。

そんなことはわかっている。

わかっているのに。

他の哀れな男たちと同様に、私も彼の虜になってしまったらしい。





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