リクエストとか

□ほんとは、ずっと
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「大佐!」

ドアを開け放って怒鳴ると、驚いた顔の大佐がデスクからこっちを見た。
「兄さん、准将だよ!」
後ろから弟が慌てて注意してくる。
「いいじゃねぇか、そんなに違わねぇよ」
全然違う!と焦る弟を放置して、オレはすたすたデスクに近寄った。

弟の体を取り戻してすぐリゼンブールに帰ったから、会うのは半年ぶりくらいだ。久しぶりに見た大佐は、どこもなんにも変わってない。
「………久しぶりだな、鋼の。どうしたんだいきなり」
驚きから呆れたような表情に変わり、笑顔で椅子を勧められる。お茶を持って来させようと言うのを、オレは辞退した。
「用事があって来たんだ」
「ほう。改まってとは珍しいな。なんだ?」
書類を脇に避けてペンを置き、大佐は聞く体勢になった。それを見てからオレも息を吸い込んで、デスクに両手をついた。

「あんたのこと、好きなんだ」

「…………………」

聞く体勢のまま、大佐の目ん玉だけが大きくなった。声は出ないらしい。まぁ、そうかもしんねぇ。

「オレたち旅が終わったし、やっと自分のことを考える余裕ができたっつうか。んで、なにをするにもまずこれを言っとかねぇとと思ってさ」
オレは大佐の目を覗きこんだ。まだ真ん丸な黒い瞳に、オレの顔が映っている。やべ、ちょっと赤くなってる。みっともねぇ。

「ずっと好きだったんだよ。だからさ、今日夜飯行かねぇ?デートってやつ」

「…………………」

「予定があんならまた都合のいいときにするけど、どう?」

「………………………」

「………てめぇ、オレの話聞いてんのか?」

「………………………」

半端な微笑を浮かべたまま目を開いて固まっている男にため息をつくと、後ろの弟が肩を竦めた。
「だから、急に言っちゃダメって言ったじゃん。段階踏まないと。ほら、どうすんの。准将動かなくなっちゃったよ」
「うるせぇな!だってよ、言わなきゃ先に行けねぇじゃんか。オレ回りくどいの嫌いだもんよ」
「………まぁ、そうだろうけど…………」
オレは大佐に近より、デスク越しに手を伸ばして襟首を掴んだ。
「おら大佐!返事は?」
「…………ハイ」
機械みたいな声で返事をした大佐はまだ目を剥いて固まったままだ。そんなに驚くことだっただろうか。
「じゃ、仕事すんだ頃また来るぞ。首洗って待っとけ!」
言ってから手を離し、オレは微動だにしない大佐に背を向けた。アルが何度も大佐に頭を下げ、慌ててあとを追ってくる。

廊下に出てドアを閉め、歩き出すオレをアルが睨んだ。
「兄さんてば、もうちょっと言い方ってものがあるでしょ」
「ねぇよ」
即答するオレにアルが文句を言おうと口を開く。それを振り向いて黙らせて、オレは弟を見つめた。
「回りくどいのは性分じゃねぇっつったろ。それに、どんなふうに言ったってどうせダメなもんはダメなんだから」
「……………まぁ、そうだろうね」
「だったらさっさと言いたいこと言って玉砕したほうがいいじゃねぇか。そしたらすっきりするし」

オレはずっと、ホントにガキの頃から大佐が好きだった。強くて、大人で。憧れが恋情に変わったのがいつだったかなんて思い出せない。
自分でも呆れるくらいガサツで乱暴で口が悪い、それだけでも不利なのに、大佐は女好きで有名だったし実際女と一緒にいるところを何度か見かけたりもしたし。
だから最初から諦めてる。そういう目で大佐がオレを見ることなんて死んでも絶対ないって、よくわかってるんだ。

体が戻ってなにをしようかと考えたとき、一番に浮かんだのは大佐だった。
あいつは今から上へ行く。軍属でなくなったオレなんか、今に口をきくことすらできなくなる。だから、今のうちに。
抱えていた想いを伝えるだけ伝えて、それでさよならしよう。そう決めてここまで来た。
でなきゃ、きっと後悔するし未練が残っちまう。そんなもん抱えてちゃ、せっかく弟を取り戻したってのにこれから先のオレの未来が真っ暗じゃねぇか。

「大佐もすぐに忘れるさ。だから心配すんなよ」
笑ってアルの肩をぽんと叩くと、弟は不安そうな顔をした。
「………忘れるかなぁ」
あんな告白のされ方したの、生まれて初めてなんじゃないの?
そう言った弟の言葉は無視することにした。

忘れるさ。

だって、この街を出たらもう二度と会うつもりはないんだから。





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