リクエストとか

□守ってあげたい
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「転校生みたいだな」
「へぇ。ずいぶん時期外れだな」

職員室に入ったら、見慣れない奴が立っていた。一年生の担任をしている教師となにやら話をしている。
「ま、関係ないさ。さっさと用事を済ませて戻ろう」
ロイはそう言って、手にした書類を持って生徒会担当の教師のところへ歩いていく。オレもそのあとをついて行きながら、ちらりともう一度そいつを見た。
金髪、金瞳。人形みたいに可愛い顔をしているが、目付きは悪い。オレの視線に気づいたらしく、こっちを睨み返してきた。ずいぶんと小柄な奴だ。本当に高校生なんだろうか。
「ジャン、早く来い」
「へいへい」
生徒会長様は各部活の予算の草案を教師に渡し、内容を説明している。オレが行く必要はないんじゃないかと思うが、一応部活動関係はオレが担当だから仕方ない。
話に加わってからもう一度振り向くと、転校生は教師と一緒に職員室から出ていくところだった。長い髪を後ろで三つ編みにして背中に垂らしている。制服からして男のようだったが、その長い髪はやけに似合って見えた。





それから三ヶ月して、学校が冬休みに入る頃。
教師が珍しく生徒会室にやってきた。
「三ヶ月ほど前に転校してきた一年生なんだがね」
センセは言いにくそうだ。
「クラスにも学校にも馴染んでくれなくて。成績はいいんだが、どうも協調性がないというか」
「はぁ」
それがなにか。そう言いたげな顔でロイが教師を見つめる。
「悪いが、きみたち。あの一年生と話をしてみてくれないか」
「は?」
「わしら教師と話すより、やっぱり生徒同士のほうが話しやすいと思うんだ。それで、まぁちょっとこう、馴染むきっかけになってくれればと」
「……………はぁ」
「じゃマスタングくん、頼んだよ」

教師は肩の荷がおりたような顔で出ていった。
副会長のリザがロイを見る。
「ロイ、さっきから『は』しか言ってないわよ」
「……………」
ロイは眉を寄せてオレを睨んだ。なんでだ。オレはなんにも言ってないぞ。
「ジャン、おまえ行ってこい」
「は?なんで」
「行きたそうな顔をしている」
「してねぇよ!」
オレが文句を言おうと立ち上がったとき、隣で生徒会日報を書いていたヒューズがにやにやして顔をあげた。
「そんなわけにいかねぇだろ?センセはおまえに言ったんだ。推薦もらっといて、そんな態度はねぇんじゃねぇか?」
ヒューズの言葉にロイが詰まる。ざまみろ。
「くそ。わかった、行ってくる」
「まだいるかしら」
リザが時計を見た。もう放課後になってしばらく経つ。
「見てきて、いなかったら明日にするよ。で、ジャン」
「なに」
「どんな子だっけ?」
「………………」
こいつはツラはいい。イケメンてやつだ。女にやたらモテる。本人もそれを自覚していて、女にはとても愛想がいい。
つまり、そのぶん男はどうでもいい扱いをするというわけだ。
「………あんた、男はろくに見ねぇからな」
「制服見て男だと判断した瞬間に視界から排除したからな。どんな奴だった?おまえ、覚えてるならついて来い」
すました顔で言うアホにため息をついて、オレはせっかく座り直した椅子から立ち上がった。
「覚えてるの?すごいわね」
感心したようにリザが言う。
「いや、ありゃ一度見たら忘れらんねぇよ」
転校生に対する感想を素直に口にすると、リザとヒューズは顔を見合わせた。どうやら興味を引かれたらしい。

というわけで、生徒会全員で一年生の教室がある階にぞろぞろとやってきた。
センセは急いでいたらしくクラスも名前も言わなかったから、仕方なくオレは端から教室を覗いていった。
残っている生徒はほとんどいない。がらんとした教室をいくつか覗き、最後に端の教室にたどり着いた。
これでいなけりゃまた明日だ。そう思って覗いた教室の窓際の席に、夕方の日差しを反射してきらきら光るものを見つけた。
「いた」
「どれだ」
ロイが横から覗く。転校生は窓の外を向いていて、こちらからはやたらに輝いて見える金髪しかわからなかった。
「あれか?」
「他に誰もいねぇだろ」
ていうか、あの三つ編みは間違いない。
「………いたんなら仕方ないな。行ってくる」
ロイは教室に一歩入り、咳払いをしてから転校生のほうへと近寄っていった。
転校生がゆっくり振り向く。それを見て、声をかけようと手をあげかけたロイがそのまま動きを止めた。

あのとき見たままの、金色の瞳。大きなそれが遠慮なくロイを見つめ、桜色の唇がなにか言いたそうにわずかに開く。

「可愛い子ねぇ」
リザが呟いた。オレもヒューズもうんうんと頷く。
ロイはまだ固まったままだ。後ろからなので顔は見えない。どんなツラしてんのか見てみたいが、我慢して見守る。もう少し待って動かなければ、みっともないので回収しに行かなくては。

「………あんた誰?」
可愛い唇から可愛い声がした。変声期のはずなのに、男にしては高い声だ。
ロイは動かない。
転校生は大きな瞳をきつくしてロイを睨んだ。ああ、やっぱ目付き悪い。
「なんか用か?」
口調も乱暴。眉を寄せてロイを睨み、立ち上がった。
ロイの肩くらいまでしかない小柄な体に、リザがまた可愛いと呟いた。大丈夫かリザ。なんかあんた目が危ないぞ。
「用がなけりゃ、オレ帰るから」
転校生はカバンを掴んでロイの傍をすり抜けようとした。
すかさずロイが手を伸ばして腕を掴む。今まで固まってたわりには素早い動きだ。それから転校生を自分のほうへ向け、ロイはようやく声を出した。

「きみ、名前は?」

おいおい。声、うわずってるよ。

「…………エドワード」

転校生が変なものを見る目でロイを見ている。でも上目遣いがまた可愛い。

「エドワード。いい名前だ」

ロイは頷いて、それから転校生エドワードをいきなり抱きしめた。

「一目惚れだ。付き合ってくれ」

「……………な」

転校生は驚きすぎて動けないらしい。オレたちも思い切り驚いて動けない。


どうしよう。

うちの生徒会長、まるきり変質者に見える。





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