小話

□青い霹靂
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「暇だなー……」
「そーだなー……」

司令部の中庭で芝生に座ってぼんやり空を眺めながら、エンヴィーとエドワードはどちらからともなく呟いた。

特にすることもなく、天気は程よくいいしそよ風まで吹いてきてはもう寝ろと言われてるようなもので、エドワードは素直にそれに従おうと目を閉じかけていた。
同じく用事もなく暇を持て余していたエンヴィーは、それでも珍しく一人なエドワードとなにか話をしようと話題を探す。
しかし共通の話題がそうあるわけでもなく。
まぁ寝顔眺めて写真でも撮っとこうかなと思いながら、俯きかけているエドワードの横顔を見ていた。

「あ、オレさー明日から南に行くんだ」

なんとなく思い出してエンヴィーが呟いた。

「へー。なにしに?仕事?」

エドワードは眠そうな声で聞き返した。興味があるわけではないが、とにかく暇なのだ。ブレダ少尉の仕事を手伝いに行った弟が嫉ましい。自分にも腕力と背丈があれば手伝えるのに。

「うん、まぁねー。なんかお土産要る?来週には帰るけど」
「いやー、別に。まぁのんびりしてきなよ」

二人とも声がぼんやりしている。エドワードは眠気に負けて仰向けに寝転んでしまった。それを横目に見て、エンヴィーも欠伸をする。眠気というのはどうも伝染するようだ。

「のんびりっつってもさぁ、ラストと一緒なんだよねー」
「あー、なんかわかる。大変だなーそれ」
「やっぱわかる?そーなんだよねー大変なんだよねー」

あとはしばらく沈黙。

そして青空を見上げながら、エンヴィーがまた呟いた。

「そーいやラストって、胸でかいよなー」
「あー、うん。なに入ってんのかなーアレ」
「いや脂肪だろーそりゃ」
「男の夢壊すよーなこと言うなよなーオマエ」
「男ってねぇ」

エドワードの言葉にエンヴィーが苦笑した。

「オマエわかってねぇのなー。オマエが言っても説得力ないっつの」
「どーゆー意味だよそりゃ」
「オマエに胸がないのが不自然だってことだよ」
「あー?そりゃオレが女みたいだって言いたいのかよ。殴るぞてめぇ」

寝転んだまま目蓋を半分閉じて言うエドワードに迫力のカケラもないが、エンヴィーは一応ごめんごめんと誠意のこもらない声で謝った。

「でもオマエ女に生まれてたら絶対可愛いぞー」
「冗談じゃねぇよ」

エドワードは本気で嫌そうに言って、とうとう目を閉じてしまった。
その幼く見える顔を見て、エンヴィーは仕方ないなと笑った。本当にコイツはわかってない。なんでマスタング大佐があんなに執着するのか、なんで自分がやたらに構うのか、全く考えたことがないんだろう。

けど、とエンヴィーはさっきの言葉を思い返した。ラストほどじゃなくていいから、コイツに胸があったら可愛いに違いない。性転換の錬金術ってないものなのかな。股間についてるアレ取って代わりに胸をつけるんだったら等価交換が成り立ちそうだ。

あまり詳しく勉強したことのない錬金術を頭に思い浮かべて、エンヴィーは首を横に振った。無理無理、ろくに知らないことなんか考えても仕方ない。それよりエドワードは眠ってしまったし、たまには隣で寝させてもらうのも悪くない。
いい夢が見れるかも、とエンヴィーはごろんと仰向けになって手を広げた。



仕事に飽きたロイにペンを投げつけられて、ハボックは間一髪でそれを避けた。危なく鼻先に突き刺さるところだ。ロイは避けられて残念そうに舌打ちすると、椅子から立ち上がって伸びをしながら窓の外を見た。

「ちょっと大佐!刺さったらどーしてくれるんスか!」

ペンを拾って突き出してハボックが怒鳴ったが、ロイは平気な顔でそれを受け取って笑った。

「ちょっと落としただけだろ。刺さらなかったんだからいいじゃないか」
「どーゆーふーに落としたら1メートル先に飛ぶんですか!狙ったくせに白々しいんだよアンタ!」
「まぁまぁ、ほら外はいい天気だし。散歩でもしないか?」
「中尉が用事から戻る前に書類やっとかないと撃たれますよ。オレ巻き添えは嫌だし」
「気分転換は必要だと思うがね」

ロイは言いながらまた外を見た。中庭に誰もいなければ昼寝もいいな、と思い目をやると。
鮮やかな金髪が目に入った。

「……鋼の?」
「え?」

ハボックも窓に貼りついた。確かにエドワードだ。しかも一人じゃない。

「……あれ誰だっけ?」

ハボックが不審そうに呟いた。黒くて長い髪をした妙な格好の男が傍に座っている。軍人ではないようだ。

「確かエンヴィーとかいったか。人造人間達の仲間だ。最近ときどき一緒にいるのを見かけるが、仲がいいのか?」

ロイの言葉に、さぁ、とハボックが首をかしげる。
二人で芝生にのんびり座っているところをみると、仲が悪いようには見えない。
ロイはそこで慌てて窓から離れた。

「行くぞハボック。鋼のの隣に座るなんぞ奴には5千年早い!」

ホークアイに言われた書類など頭から消し飛んでしまった二人は急いで中庭へ走った。


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