眠りから覚めた時に思う。
ああ、今日もボクはまだ此処に存在するんだと。

そしてイヤでも陽はまた昇っていて、予想通りで予定通りな一日が始まろうとしていた。

60も半ばを過ぎると、長く眠るといった芸当は出来なくなってくる。
瞼を閉じていてもまどろむ心臓は、自動的に通常の早さへと切り替わってしまうのだ。

それは、ボクも普通の人間だったんだと認識出来る、数少ないシニアな現象でもあり。
また、今のボクが出来上がるまでの過程から考察すれば、単にあまり深くは眠らないような環境慣習のせいだ、とも言える。

……そんなツマラナイ自己分析をしながら起き上がり、バスルームに向かう。

ローブの結び目を解きながら洗面台の戸棚を開き、いつもと何ら変わりなく愛用のハサミを手に取って。

鏡の前で、考えるよりも早く言葉が漏れた。


「……キミは、ダレ?」


―――ボクの目の前には、人を食ったような雰囲気の男がいた。

少ぉし寝ボケ気味な眼を乗せた顔に、神ノ木ちゃんに似たカンジの髭を生やしている。
歳はまだ、30代といったようなトコロ。

ボクはやや暫くその男と見つめ合い、手入れバサミをチョキチョキと鳴らしてみて。

なぁんだ…そういうコトかと、互いに笑い合った。


「やぁ、泳いでる?懐かしい時代のボク」


そうそう。思い出した。

昨夜のボクは、とある催しに来賓者として出席した。
そこで、チョッピリ非合法なモノも開発している製薬会社の会長にある薬を貰い、就寝前にソレを服用したのだ。

それは様々なデザイン・ドラッグの製造過程の中で、様々な偶然の一致により出来る、極めて稀な物質らしい。
そのため、実用・製品化するまでには至っていないのだという。

また、その利用範囲も掴みドコロがないとかで―――もし宜しければという、軽い御愛嬌程度の譲渡品だった。

服用から細胞の若返りが始まり、約6時間後にソレは止まる。
その時点の状態を12時間ほど維持した後、再度約6時間程かけて元々の細胞年齢に戻るそうだ。

―――つまり。

服用後24時間の中で、肉体を過去に巻き戻し、現在まで早送りする……といった感じ。

これが再生のみの効能だったなら、不老不死の薬だとも言えたけれど。
まぁ未だ神様はヒトに対して、永遠を与えるほど寛容じゃなかった……つまり、そういうコトだ。


(12時間で解ける魔法『Cinderella(シンデレラ)』ねぇ……ネーミング的にはイマイチだケド……)


これは、過去の自分が今に在るという現実。

そして、これを愉しめない愚かさを、ボクは持ち合わせていない。

軽く髭を調えながら、じゃあ早速始めようかと、鏡の中のボクに問い掛ける。

思い浮かぶのは勿論、アノ三人。



―――ねぇ、ソコのキミ。

身近で興味深い彼等の誰と、過去の海を共に泳ごうか?




成歩堂 龍一(11.06.29up)

□御剣 怜侍(準備中)

□神ノ木 荘龍(準備中)




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