バレンタイン企画〜情熱の嵐2009

□《Hi,milk》
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  《Hi,milk》






20歳を過ぎてから『バレンタイン』という言葉の響きが、こんなにも気になるとは思ってもみなかった。
昨年まては、テレビでチョコレートのCMが飛び交おうが、街にハートマークが溢れようが、これといって何かを感じるといった事もなかったのに。

それらしく正月が過ぎてから、街中のディスプレイが一気にバレンタイン化した。俗に言う、バレンタイン商戦とか言うやつだ。

確かその時期辺りから、オレは『バレンタイン』という言葉を気にしている。
そしてその要因であろう人物は、午前の一服タイム直前に幸福そうなけのびと共に漸く起床した。


「おふぁああぁ……よ、ほ―――」

「あ、おはようございます、成歩堂さん」


欠伸混じりの“おはよう"が、最近では宇宙語のようになっている。
それにツッコミを入れず、ごく普通に受け流す最近のオレも、他人が見たら同じカテゴリ内に収められるんじゃないかと思う。

……というか。

寝起きの成歩堂さんは、ツッコミ自体が反応希薄状態。
つまりは、諦めだ。

歳をとるということは、諦めの度合いを計るスキルに、より磨きがかかることらしい。
現実というものを知れば知るほど、社会的な物差しで『自分の身の程』が分かるようになるからだ。

だから、成歩堂さんの『面倒臭い』も有る意味それに準じてるんじゃないかと、最近思うようになった。
諦めをほじくり出された結果が『面倒臭い』に繋がっているんじゃないかと。


(色々あったみたいだからな……弁護士時代に)


一部分しか知らない辛い過去を詮索しつつ、顔を洗い終えた本人をチラ見する……が。

3度目の大欠伸をしながらソファにポテッと座る寝ぼけ顔を見ると―――何だか、そんな事ばかり考えているオレの方が逆に気の毒に思えてきて、冷汗を垂らしてしまった………。


「変な夢見たなぁ……」


自業自得な冷汗の後に成歩堂さんがボソッと、そう呟く。
漸くヒト科の会話が出来る状態にまで覚醒したと判断したオレは、成歩堂さんに聞き返すことにした。


「どんな夢だったんですか?」

「ええと……ざっくばらんに言うと、チョコレートの夢」

「チョコレート?」

「多分、これ観て寝たからだと思うよ」


成歩堂さんはそう言って、レンタル袋の中からDVDケースを取り出す。
それは映画を余り観ないオレも触り位は知っている、結構有名な映画だった。


「あー……確かに、そのまんまですね」

「うん。じゃあ、まんま繋がりで朝ごはんなんかあれば」

「うわ…そうきますか―――」


突然に現実的な切り返しを受けて、オレは給湯室に向かう。

そんなオレを見て、ニイッと笑う33歳の大人の為に。



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