バレンタイン企画〜情熱の嵐2009

□《Sweetness black》
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《Sweetness black》





今宵の会合も滞りなく終わり、後は一路に検事局を目指すのみだった。

リムジン車内で局長は携帯を片手に会合の資料に目を通しつつ、官僚関係らしき者と通話を交わしている。
簡潔であり且つ饒舌な弁を聞きながら、私は車窓を流れゆく光達を眺めていた。

やや暫くして、通話を終えた局長が足元のボックスから何かを取り出した。
手にしたそれは会合に向かう途中、この車内で局長へと贈ったバレンタインの品であった。


「甘ァいカカオのイベントも、もうそろそろオシマイの時間だねぇ」


局長は装飾のリボンを解きながら笑い、包装を剥く。

やがて現わとなったのはロマネスク調の模様彫りが施された木箱。
局長はそれをしげしげと眺め、ふぅん…と一言呟き、蓋を開いた。

箱内には絹糸のような金色の飴細工が敷き詰められており、その上にボトルチョコが並べられている。
局長は箱からひとつそれを摘み上げ口にした後、ニコリと笑った。


「歳に合わせたコニャック入りなんて選ぶの、御剣クンぐらいだよ?」

「……恐れ入ります」

「ああ…共食いみたいでイイね、コレ」


カカオと相まったコニャックの芳香が車内に漂う。

甘いものをあまり好まぬ故に、甘さをかなり控えるよう調味指示したこれは好みに合ったらしく、更にもうひとつ口にした。

局長は漣のように小さく笑い、車内を仕切るスモークを数回ノックして、割れた硝子の隙間に『道草するから』と伝える。


「正味1時間ってトコだけど、付き合ってよ」

「は………」

「今夜はとっても、気分がイイ」


木箱は閉じられ、局長は僅かに窓を開ける。

如月の夜風の中に潮の薫りを感じるまで、その瞳は遠い何処かを眺め続けていたのだった。


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