バレンタイン企画〜情熱の嵐2009
□Message 〜Returns
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―――ボルハチ前
AM.0:10
看板灯を消して掃除を済ませ、僕は何時ものように店を出た。
外にはチラチラと小雪が舞っている。
暦の上では立春を過ぎているけれど、春はやっぱりまだまだ遠いなと思いながら、大通りに向けて歩き出した時だった。
街灯の下に見覚えのあるコートを羽織った人影が見えて、僕はニット帽の折目を押し上げる。
まさかね…と―――そう思う時は大概がビンゴだというのは鉄板なんだろうか。
「御剣……?」
「ム……コート位は着用させるようにと、あの青年には申し伝えたのだが………」
長い前髪にも雪の花を咲かせた御剣は僕を見るなり、首に巻いていたマフラーを外しながら近寄ってきた。
そして案の定、自分のマフラーを僕の首へと巻き付ける。
フンワリとしたカシミアのマフラーは御剣の体温を留めていて、とても温かい。
僕はパーカーのポケットから手を出し、その肩に薄く積もった雪を払うと、更にコートまで脱ごうとしている御剣を慌てて止めた。
「33才の僕を子供扱いするなんて酷いよ、御剣」
「君が咳をするのなら、私は恐らく風邪を引く―――うつしてしまえば治るとは限らぬが」
「何だよそれ……御剣の過保護!親御さん!」
「……いかにも。」
昔懐かしい口喧嘩にも御剣は機転を利かせてくれて、僕らは互いに微笑み合う。
するとやや暫くして、御剣はコートのポケットから綺麗にラッピングされた小箱を取り出し、僕へと差し出てきた。
さっきから色々な不意打ちを食らってばかりの僕は、少しキョトンとしながらそれを受け取る。
それは深い赤色で統一され、リボンには小さな野薔薇の飾りが付いていた。
「あ……これ―――」
「君に贈る、聖バレンタインの品だ。本体のチョコレートは既に本日の午後を予定に事務所へと配送予約済みなので、安心して頂きたい」
日付が変わっているから確かに今日は14日。
店の看板時間はシンデレラタイムだから、御剣はそれを見越して来てくれたらしい。
「来るって教えてくれたら、僕も持ってきたのに」
「完璧な約束が出来る状況に無かったのだ……済まぬ、成歩堂」
「じゃ、そのペナルティとして事務所まで送ってよ。僕にだって手渡しする権利位はあるんだし」
御剣は少し困ったような表情で口元を緩ませ、亀返事をひとつ漏らしながら、コートのポケットからキーを取り出した。
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