バレンタイン企画〜情熱の嵐2009
□Message 〜Returns
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《Message 〜Returns》
7年振りに訪れたバレンタインに、僕は妙に悩んでいる。
チョコレートについてあれこれと悩む事が意外にも楽しかったのは、あの頃までの季節限定だったのかもしれない。
それは歳をとったせいなんだ―――そんな風に自分を胡麻化してはみても、あの頃とは異なる関係の回転に僕らは居て、相変わらずグルグルと巡り廻っている事にあった。
幸せなのは今なんだと信じて、幸せだと思った過去を引きずって、幸せだった初恋の人に僕は今も守られ続けている。
僕はそれぞれに違ったものを贈ろうと、渡せるかも分からないチョコレートまで用意していた。
ところが、いざ御剣のものを選ぼうとすると、手に取ったどれもこれもが色褪せて見えた。
御剣とは恋愛とも違うような感じで、でも、それよりもずっと身近に居て欲しい存在だからだと思う。
そして。
散々に悩んで決めたシンプルな石畳風の生チョコは昔、御剣の執務室で散々食べた大好きなチョコレートだった。
僕は相変わらずそのテの芸がないから、局長さんのように奇才的なアイディアも、ゴドーさんのように大人の薫りを漂わせる事も未だに出来ない。
だから、結局は想い出に浸る。浸った結果がこれというのも何だか成長していない気はするけれど。
(何かないかなぁ、御剣が喜びそうなもの……)
僕が1番迷惑を掛けたと思うのは御剣だ。それは多分、今も。
副検事局長に昇格して気の遠くなるような量の仕事を抱えていても、僕が何らかの面倒事を抱えてしまうと、大概御剣が陰で支えてくれていた。
7年も経ってこんな我が儘な路を選択をしても、御剣は昔以上に僕を気遣かってくれている。
だから何か感謝の気持ちを添えたチョコレートを贈りたかった。
形として『物』は買ったけれど、それだけではやっぱり何か足りないような気がして、更に僕は悩む羽目になる。
僕らしくて、素直なもの。
それでいて、御剣が喜ぶもの。
何だかトンチの世界だなぁと思いながら、僕は足元の小石を蹴って、気の利かない自分の性格なんかを少しばかり呪ったのだった。
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