バレンタイン企画〜情熱の嵐2009

□《WILD_LOVE 〜Freeze Frame》
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《WILD_LOVE》
〜Freeze Frame





局長と共に出席した政界との会合は、とあるホテルを会場に行われた。

場は予定を少しばかり繰り上げ滞りなく終了。
しかし、ある政界人が局長へ内密な相談事があるとの事で、ホテルのラウンジカフェで独り待つ事となり、こうして今に至っている。


(今宵の帰還は許されぬらしい………)


オーダーしたアールグレイに添えられたチョコレート菓子には、『Saint Valentine's Day』と印刷された赤いカードが添付されていた。
ホテル側の時節柄サービスなのだろう。

周囲を見渡せば、甘いイベントを堪能する恋人達が大半を占めていた。
菓子業界の思惑で躍らされているとは承知していても、それを一つの季節行事として自身も受け入れているのだから、批判する事はしないのだが。



―――PiPi……



懐の携帯が小さく鳴る。
局長からであろうと思い、迅速に確認したが。

それは、局長からではなく神ノ木からのメールだった。



―――――――――――
From:神ノ木 荘龍
Subject:LUNATIC LAURIER

》ボウヤの背後に、ヴィジョンの抜け穴がある

―――――――――――



『背後』の文字に誘導されるように振り向くと……やはりその男は、ごく当たり前のように口端だけをニヤリとさせて佇んでいた。

携帯を片手に、実にふてぶてしく――――


「……よく此処だと分かったものだな、神ノ木」

「クッ!鼻の利き具合は、今も昔も変わっちゃいねェのさ………」


裏社会の住人となった神ノ木は、様々な情報筋を網羅している。
それはこのように私的流用にも何かと重宝するようだ。

神ノ木は携帯を懐にしまい込みながら、同席は当前だと言わんばかりに対面へと座る。
そんな相変わらずの厚顔さに呆れながらも、虚空であった目前に人の姿が在る事に悪い気はしなかった。

その着席を見計らったウエイターが颯爽とオーダーを受けに現れると、神ノ木は珈琲をと即座に告げ、ブランデー・グラスの中にあるキャンドルの炎で煙草に灯を点す。

突然の来訪者は立ち上る紫煙を銀髪に遊ばせながら、愉快気に微笑んだ。


「本日の業務は滞りなく終了したんだろう?」

「ム……執務は未完ではあるのだがな」

「クッ!このご時世……サービス残業にゃ、ペナルティが付くんだぜ?」

「これはあくまでも、自主的な意思が在るとだけ回答しておく」


そんな会話を交わす間に、ウエイターが珈琲を届けに現れた。
置かれたソーサーには、やはり同じく赤のカードと小さなチョコレート菓子が添えられている。

一礼したウエイターが場を去ると、神ノ木はそのカードを片手に珈琲を煽った。


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