バレンタイン企画〜情熱の嵐2009
□≡ Rest ≡
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何かが変わった訳じゃないけれど
いつだって
信じてるものがある
ずっと、昔から――――
≡ Rest ≡
〜I've never been
this much in love〜
みぬきから貰ったチョコレートは、【パパも大好き】とホワイトチョコで文字書きされたミルクチョコレートだった。
じゃあ他に誰か好きな人が居るのかい?と聞いた所、みぬきは即座に『みんな大好きだから仕方ないの!』と答えた。
素直にそう答えた彼女を、僕は現実的な観点から実に羨ましく思い出しながら、パーカーのポケットに忍ばせたままの小箱を指で弄んでいる。
壁時計の針が11時を指す様子なんかをボンヤリ眺めていると、厨房からオーナーが姿を見せる。
普段なら居る筈のない僕を見て、不思議そうな表情をした。
「お。土曜なのにどうした?」
「今日はバレンタインなんで鍵番頼まれたんです、あの新人さんに」
「なるほどな。まぁ、柳葉魚(シシャモ)な俺にゃ遠い日の花火だ―――じゃ、後頼むぞ」
「ええ……お疲れ様でした」
妙に納得したオーナーはシェフスーツを脱ぎながら、大きな欠伸をひとつしてロッカールームのある裏方へと姿を消した。
そんな会話に僕は少し笑って、早くも閑古鳥となった店内のテーブル席の片付けを始める。
椅子の下から、客が落としたらしいハート形のバレンタインカードを見付け拾い上げて。
甘い愛のメッセージを眺めながら、またパーカーの小箱に指を宛てる。
【 I've never been this much in love―――】
見知らぬ誰かの落としていった、そんな言葉に酔いしれながら。
未だ夢見がちな自分を嘲笑しつつ、またひとつ椅子を手にしたのだった。
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