《甜!!》〜狼部屋

□『Fail by me』〜wolf_@_tusk#1
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「あん時は、探偵気取りで随分と楽しそうだったな、アンタ」

「全ては職務であるのだ。娯楽になぞ思われたくはないな」


小馬鹿にするように現場のプロを差し置きやがって――と、続ける筈だった。

見た目のガタイにしちゃ随分と生白い指先が、これから執り行なわれる法廷の資料を握っていた。

検事なんざ信用に値しねぇ輩だと、オレの根底にソイツは根深い。
無論、今でもそう思っている。

だが、コイツは他の検事達とは少しばかり違っているような気がしてならなかった。

こうしてわざわざコイツの法廷なんざを見に来たのは実際、そんな理由からだ。


「ム…そろそろ入廷の時刻なので失礼する」

「オレの国じゃぁよ、時間はあってねぇようなモンだぜ?蟻みてぇに糞セカセカしやがって―――どうもこの国は好きになれねぇ」

「"All his geese are swans"―――日本では『手前味噌はからい』と言うが、貴方のそれは愛国心からのものだと受け取っておこう、狼 士龍」


そう言って僅かに微笑った薄い唇。
そう軽く遇い、オレに対して余りにも無防備に背を向けたコイツに一牙報いてやる……咄嗟にそんな激情が湧いた。

『捏造』という名の情報を武器に、オレはその背の後ろに立つ。

コイツに興味があったから、部下達を使い散々に調べ上げた。
人間誰しも、深くほじくり返せば膿のひとつは出るモンだが……コイツの場合はそれが半端な量じゃなかった。

何が嬉しくて父親の仇な筈の男を未だに『師』と仰ぐのかも分からねぇ。
ソイツのせいで、未だに上のヤツに首枷を付けられているってのも救いようがねぇ位にバカな話しだ。


「……反論は後ほどにしてくれ賜え」

「昔、アンタ人形だったんだってな。狩魔って奴の」

「………………。」


ドアノブに手を掛け、僅かに扉を開いたままその動きがピタリと止まった。
ハッ、漸くまともに気を向けたなと思い、更に近付く。

その綺麗なカオに皹が入るのも時間の問題だ。


「大体読めるぜ、アンタ。ガキの頃から生真面目過ぎて友達もいなくてよ、勉強ばっかしてた感じの淋しいお坊っちゃんだったんだろ?」

「………………。」

「利口になったはいいが、コミュニケーションの欠落で上手く世渡りってヤツが出来ねぇ。そんな訳で手っ取り早く、あちこちのヒヒジジイ達相手に股ァ開いた。ソイツの甲斐あって今や若くして上級検事―――アンタはそうやって無理矢理自分の存在価値作ってきたんだろ?」


よくもそれだけ酷ェ台詞を吐けるもんだなと、当のオレ自身が不思議でならなかった。

クソ、こんな事を言わせるような態度ばかり取りやがるからだと、ついに黙りこくった減らず口に心中は言い訳を吠える。

直ぐにコイツの口からはオレに向けた罵声がくる筈だ。その為に口走ったのだから。
憎らしげにオレだけを睨み付ける、そんな視線の為だけに。



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