WALL-BAR
□Chameleon Dynamite
1ページ/11ページ
「マジ冗談抜きで遅刻しますよ、成歩堂さん!!」
「ゥン……あと1時間………」
「5分も厳しい中で1時間て……駄目です!無理ですから絶対!頼むから起きて下さいよ!!!」
「………ちぇっ」
■■■■■■■■■■■
『Chameleon Dynamite』
〜ONCE,TWICE,I'LL TRY〜
■■■■■■■■■■■
「ふぁあ……いってきまふ………」
「成歩堂さん、書類忘れてますよ!!手に持ってるの、それ雑誌じゃないですか!!」
「――二ツ折りするといい夢見れる厚さなんだけどなぁ……」
委員会のある朝は、決まってこんな感じだ。
オレの職場は、成歩堂さんの自宅兼事務所となっているから、毎週水曜日は早目に出勤して目覚まし代わりとなっていた。
大概が重役出勤並に起床する成歩堂さんだから、起こすのには骨が折れる。
毎朝欠かさない発声練習は、水曜日に限りこれに変わっている位だ。
「それと、もし良ければこれも。朝食変わりに」
「へぇ…。あ、ホットドックだ」
「地裁に着いたら、会議前にパパッと食べれますから。ピクルス増量してあります。目が覚めますよ」
書類と一緒に渡した紙袋を早速開ける子供のような、その様子。
そこで非常に嬉しそうに笑うものだから、最近はこんなデリバリーまでも熟していた。
「オデコくんは、いいお嫁さんになれるね」
「いや〜それ程でも……って、いやいや!オレは嫁を貰う方ですよ!!」
「うーん……もう少し大きいと嬉しいなぁ、ソーセージ」
「って……食いながら行く気かよ―――」
書類を小脇に挟み、成歩堂さんは早速ホイルを剥いている。
早く行かないと遅れますよと出発を促すが、そのマイペースさは全くもって変わらない。
変わらない上に、非常に厄介な事も……たまにある。
「あのさ、オデコくん」
「な、何ですか……今度は」
成歩堂さんはドアを肩で押し開きながら、唇に付いたケチャップをペロリと嘗め、ニイッと笑う。
その仕種を見て、目を覚ましかけた将軍様にオレは焦り、妙な体制で聞き返したのだけれど……
「今度ホットドック作る時にさ、ソーセージ…もっと太いやつにしてくれる?」
「はぁ……でもそれじゃフランクフル……」
「ココ位に、ね」
「―――!!!!」
スエットの中心に指先を這わせ、漸く成歩堂さんはペタペタと出て行って。
お約束にも一気にしゃがみ込む、オレ。
今頃に何思春期真っ盛りなんだよ!と、唸りながら自分にツッこむ。
……実に虚しい独り芝居だ。
(くそっ……何時になったら馴れるんだオマエはーー!!)
その背後で、ニコニコと無邪気に拍手をするみぬきちゃんもまた……ありふれた日常の場面。
この親子の無敵さにオレは、とある決心を固めていた。
既に、アポイントも取ってある。
(みぬきちゃんはともかく……成歩堂さんだ、問題は)
自分の将軍様を宥めすかしながら、その決心を再び固め―――暫く間抜けなオブジェと化していたのだった……。
.