WALL-BAR
□【序曲 extra】―CIRCULATE SOUL
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足跡は跡形もなく消え
ただ影のみが
我らが過ぎし処を
移り行く
呪われ望みなきもの
我が求めし月
【序曲 extra】
―CIRCULATE SOUL
……此処は全く変わってはいなかった。
踏み締める大理石の固さも、エントランスの景観も、あれから何一つ―――。
立ち並ぶ職員と検事達に迎えられ、副検事局長としての帰還。
自室は既に内装物全てが、局長室内の隣室へと移動されていた。
それは時に局長代理として職務を遂行するという理由からなのだが、このポストに就いた者が同室内に席を置くといった事例はない。
恐らくこの部屋は、局長が今は亡き師の為に用意したもの。
副局長のポストを今まで不在としたのは、その願いあっての事だろうから。
―――Trrr…Trrr……
机上の電話から呼び出しの電子音が響いた。ディスプレイには、その発信元が受付であると表示されている。
『お疲れの所、申し訳ありません。エントランスに接見希望の方が来局しておりますが、如何致しますか?』
「接見…?その様な伝達は聞いていないのだが……誰だろうか?」
『個人の方で、東谷征二様…と。』
その忘るる筈もない名を耳にし、やはり未だこの世界が存続している事を実感した。
東谷征二―――関西最大組織『黒龍会』の若頭。
今は、総代補佐という肩書がついている。
そして……脳裏へと浮かぶ、あのマスカレード。
その背に業を背負い、この世界に牙を剥いた男を。
『如何されますか?』
「了解した……第2来客室に頼む」
『はい。承知致しました』
成歩堂との再会を果たした後に、それはまるで時急ぐような接触だった。
世界は留まる事を決して許すことなく、大河の流れに似て絶えず変貌する。この新たな季節は蓄積された過去への贖罪であり、同時に一塊の希望でもあった。
(強く、在れ―――)
絶対の存在より受け継いだ二度とは聞けぬ言葉。
未だ土に還る事叶わぬ亡骸へと誓う狩魔の誇りを胸に、御剣は東谷の元へと向かう。
それは七年の時を経て、再び巡り、廻る―――――。
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