WALL-BAR
□Pink Diamond
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【Pink Diamond】
―Proof of property―
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「ご苦労様でした――成歩堂」
「君に労らわれるなんてさ……明日はきっと嵐だろうな」
無造作に散る僕の服を踏み付けて、霧人が笑う。
少し無茶されて痛む下肢に眉を寄せながら、僕はベットから身を起こした。
その白魚のような指が握る茶封筒が、どうやらこの気怠さの報酬らしい。
検事としては、やや出来の悪い弟に与える為の、ささやかな『証拠品』らしい。
「あの声からして、そんな減らず口をきく余裕があるとは思えませんでしたが」
「…長年やってればコツ位覚えるさ。読みが甘いよ、君は」
「フフ……まぁ、いいでしょう」
それが美しい兄弟愛なのか。または同じ遺伝子を持つ者として、己との格差を付けたいという動物的な本能なのか。
僕には判断しかねるけれど。
そんな事を考えながらベットから降り、霧人の足跡がついたスラックスを手にしようと屈んだ時だった。
白く細い指先が、僕の顎を持ち上げる。
「私はまだ許可していませんよ、成歩堂?」
「服を着る尊厳位は有ると思っていたけどな―――人として」
「今の貴方は蟹工船並です……自覚なさい」
霧人がバスルームの方向 を顎で指す。
どうやら、まだ解放する気はないようだ。
僕は少し溜息を漏らしながら、ノソノソとバスルームへ足を向ける。
それを満足気に見る視線を背中に感じ、今時分に蟹工船なんてね…と、この関係が実に馬鹿らしく、霧人が気の毒に思えた。
(少しでも、同じ匂いがすればいいのにな――――)
バスルームに入り、温めのシャワーを浴びながら、僕は下肢に光るソリティアを眺める。
こんな独り遊びのようなゲームを用意して旅立った、十字架の胸を思い出して―――僕はほんの少しだけ……泣いた。