WALL-BAR
□序曲4―ISOLATED SOUL
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雨が泣く
哀れみの涙を流して
もう一人の
忘れられた英雄の為に
【序曲4】
―ISOLATED SOUL
―――空港第2ビル 内
「長期出向お疲れ様です、副局長殿」
「ム……貴様は初めて見る顔だが……」
「僕は牙琉響也―――近い未来には、貴方の真下に位置する予定の検事ですよ」
「無駄口は慎むように。……これを持ち、迅速に帰還せよ……牙琉検事」
「……了解」
7年前に一度だけ、この副局長を見た。
遠目で見ただけでその時は良く解らなかったが、こうして対面し理解した事がひとつ有る。
整った顔立ちから放たれる中音でクリアな声。その切れ長の瞳は凛として取り入る隙を全く見せない。
近寄り難い雰囲気と、それでも関心を抱いてしまう淡麗な容姿。
身を包む情熱的なワインレッドが透明な肌を更に際立たせていた。
(分かる気がするね……Daddyのお気に入りだって)
【孤高の検事】―――過去に副局長はそう呼ばれていた。
また、『成歩堂 龍一』元弁護士とは実に親密な関係だったらしい。
「……貴様は『牙琉霧人』の弟なのかね?」
手渡されたぶ厚いファイルを受け取って軽く頭を下げ、退室しようとした時だ。
突然声掛けられ、振り向きざまに見た副局長の表情は、実に複雑極まりないといったものだった。
「ええ、『牙琉霧人』は確かに僕の兄ですよ。ま、今は被告人ですけどね」
「……了解した。行ってくれ賜え」
何を確認したかったのかは定かでない。
それが妙に不自然な言動だと感じた……その程度に留まったが。
しかし、別の意味で興味は芽吹いている。
あの『成歩堂 龍一』が弁護士資格を剥奪されて7年間。
外周とはいえ、親密な関係ならば知らぬ訳はないのだから。
(いいフレーズが浮かびそうな予感だよ、Daddy―――)
セルスイッチを押しながら響也は空を仰ぎ見る。
鉄の機体が赤いシグナルをくわえ大空へと消えて行く姿を眺めた後、自身もまたアスファルトの路にと消えていったのだった。