WALL-BAR

□序曲3―SAVAGERY SOUL
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慰めの言葉は
今は何の力もなく
俺はただ
お前の哀しみを飲むだけ

切り離せない絆は強く
同じ赤い血は流れて……





【序曲3】
  ―SAVAGERY SOUL





「オニギリは丸でオムスビは三角………かぁ」


事務所に何故か置いてある雑学辞典にはそう書いてあった。
成歩堂さんはきっとこれを読んであんな事を言ったんじゃないかと思い、これで漸く見抜いたと少し得意げにオレは胸を張った。


(よし!今夜は三角オムスビを突き付けるぞ!!)


成歩堂さんは今夜もまた何時ものように、ピアノの椅子に気怠そうに座っていると容易に想像出来た。

紙袋を持つオレを見て、パーカーに突っ込んでいた手を出して――――


【唇があったかいから、だよ】



「だああッ!違う、違うだろ!!!」


脳裏にすっかりと焼き付いてしまったその場面を思い出し、オレは頭を抱え込む。

これ以上の『オムスビ突き付け模索』は危険だと感じて、心を落ち着かせる為に腕輪に手を宛がった。


【いい匂いがする】



「またかーー!!!」


手の甲に触れた唇から覗くピンク色の舌先が、今度はフルビジョンとなって脳裏に映し出され、オレは一気にしゃがみ込む。

すると、背後から突然パチパチと拍手が聞こえてきた。
その音にギクリとして恐る恐る振り向くと、瞳をキラキラと輝かせたみぬきちゃんが何時の間にか立っている。


「凄い芸ですね!私、笑いを堪えるの必死でしたよ、オドロキさん!!」

「わ……笑い?」

「ええ!それはもう、満点大笑い的な!さっすがパパがスカウトしただけありますね〜!!」

「そっち方面かよ……」


傍から見れば確かに滑稽極まる姿だったかもしれない。
しかし一般人にならともかく、芸人を見る目が肥えている彼女から『お墨付き』を貰う程だったのかと―――自分自身が非常にいたたまれなく感じた。


「あ、いけない!すっかりオドロキさんの芸に魅入っちゃいました!」

「いや、芸と違うから、みぬきちゃん……」

「お客様なんですよ、パパに!」


どうぞ〜と扉に駆け寄り、みぬきちゃんはニコニコと、ずっと待たせていたらしい客を事務所内に招き入れる。

オレは慌てて立ち上がり、その客人の姿を見て――――下肢の将軍が一気に退陣した。
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