WALL-BAR

□序曲 ―RETURN TO SOUL
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廻る過去のオーケストラ
黄金タクト宙を舞う

不協和音奏でし
いとしあなた蘇れ―――






【序曲】
――RETURN TO SOUL





自分の人生に大きな分岐点があったとすれば、それは間違いなく、成歩堂さんとの出会いだと思っている。

数日前の牙琉弁護士の逮捕により、主を失った牙琉法律事務所は閉鎖。
弁護士としての初陣は、結果として自分の居場所を崩壊するという形になった。


『僕にも責任とか、あるみたいだしね』


そう成歩堂さんは笑い、みぬきちゃんからも半ば強引にスカウトされ、オレはこの『成歩堂芸能事務所』に厄介になっていた。

漸く手にした弁護士バッチも芸のひとつだとか言われて………。


「ほら!成歩堂さんっ!もう起きて支度しないと!また委員会に遅刻しますよ!!」

「ン〜……時計なんかキライ……だ」

「嫌いでも何でもいいですから!はい、これ書類ですからね!毎回毎度、起こすオレの身にもなって下さい!!!」

「―――む゙〜………いってきまふ…」


成歩堂さんは酷く恨めしそうな顔をしながらニット帽を被り直し、ペタペタとサンダルを鳴らしながら事務所を出て行く。

それを見届けた後、その寝床変わりとなっているソファに腰を下ろして、テーブルの上にと散らかるジャンク・フードの包み紙を寄せ集めた。


(全く…こんなもんばっかり食ってたら早死にするぞ……)


―――今はこんな世捨て人のような彼も、7年前は凄腕の弁護士だった。
彼の関わった事件は表面的に、検事側優勢の敗北感漂うものが多かったように思う。

それを逆転させ、隠された真実を解き明かす姿は、何度見ても実に恰好よかった。

それが、今じゃあんなだ……。


この事務所は元々、『綾里千尋』という女性弁護士のオフィスだったという。その綾里弁護士の最初で最後の弟子となったのが成歩堂さんだったのだ。


「植物の栄養剤より自分の健康管理が優先だろ……普通」


紙屑の中に『植物元気』という空包装を見付け、ブツクサと独り言を漏らした。

《チャーリーくん》と呼ばれている、事務所随一の観葉植物を成歩堂さんは大事にしている。
二言目には『面倒臭い』と漏らすのに、この植物の世話だけは欠かさない。
寧ろ、オレの方がおざなりに取り扱われているような気がする位だ。


(もう一度、司法試験を受けてくれたらな……)


同じバッチを付け、出来れば一緒に法廷に立ちたいと、オレは願っている。
協会も彼の実力は認めているようだったから、そう難しい話ではないように思っていた。


でも、成歩堂さん自身が何故かそれを拒否しているのだ。
私的にあの事件で負った心の傷がまだ癒えていないからだと思っては……いる。


(そうとでも思わないと……人生が虚しく思えるもんな)


時間の流れのまま流浪する、そんな生き方をどうにか方向転換させたかった。
有る意味、私的な夢の実現願望も加味されてはいるけれども。


(負けませんよ、オレ!!『成歩堂法律事務所』の復活をオレの手で、必ず!!)


妙な熱血漢を背負い、集めた紙屑をゴミ箱に放り込みながら、今朝もまたこんな気合いを入れた。

多分、『ああ、そうなんだ?じゃ、頑張ってね』と他人事のように返答されるのがオチだろうけれど――――。
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