白黒の扉

□凍える指先
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脆い

弱い

醜い

儚い




“人間”という単語で思い浮かぶイメージ


興味など微塵もない
人間がどうなろうがどうだっていい


関心などなかったはずなのに



ノアという種族柄、長い時を生きているが、これほどまでに不愉快に思ったのは初めてだ


“うまくいかない”



伯爵の命令で殺す筈だったエクソシスト

黒の長髪と端正な顔立ち、射抜くような眼が特徴の男だった



簡単な仕事のはずだった


人間になりすまし近付いて、薬などで眠らせたあと僕の能力で心臓を止める

身体に一切外傷を与えない

殺された方も、自分が死んだことに気づかない



たったこれだけの作業なのに実行に移すことができない


黒の男は、僕を優しく抱き締める


暖かい……


ロードやティキに抱き締められているときも暖かいが、この暖かさは、それとは少し違う暖かさに感じた



黒の男が僕の首筋に唇を寄せる

手や吐息が熱を帯びているのがわかる



初めて会ったときに殺しておくべきだった

今までも、早く殺していればと後悔する時はあった

そのたび、僕を思って気付かれないようにロードやティキ、デビットが後始末をしてくれていた


これ以上、迷惑はかけられないと思っていた矢先にこれだ


しかも今回は、本当に始末が悪い



“んぁ…神田…”



情が移るというレベルではない



“……もやし”



好き

同姓にも関わらず、身体を差し出すほどに



“もやし?どうした”



自然に熱いものが込み上げ、それは留まることを知らず、雫となって目から溢れる



“痛かったか?”



痛い、痛いよ



“苦しいか?”



苦しい、苦しいよ


胸が裂けそうだ



“愛してる”



あぁ…………




僕は、火照る身体とは裏腹に、凍えきった指先で彼の心臓に触れた





†‡†‡†fin†‡†‡†
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