夢違う、貴方と
□第参話
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真っ赤な夢を見た。
辺り一面がただただ赤くて、それはまるであの夜の異形の瞳の様だった。
全部が全部赤の世界、それはまるで―――。
「ねぇ、起きてよ」
私を夢の中から引き上げたのは涼やかで軽やかでやけに優しい、そんな声。
「…おはようございます」
「ん、おはよう」
そう言ってのそりと重たい体を持ち上げた。
体は鈍く痛みを訴えていてひとつひとつの動作が面倒くさい。
顔をあの声の方向へ向けるとそこにはやっぱり翡翠色の瞳が意地悪そうにこちらを見ていた(そのくせ声だけは異常に優しい、不思議)
「いつまで寝てるつもり?さっき一回起きたと思ったらまた寝ちゃうし」
「…すみません」
取り敢えず謝罪すると彼は少し面食らった顔をして素直な子は嫌いじゃないよと付け加えた。
それからすぐにその顔は極上の笑みへと変わり唇が緩やかに弧を描く。
その表情に少しだけぞくりとしながら私も彼を見つめ返した。
「ねえ、」
急に話し出した彼に今度は私が面食らう。
その驚きを表情に出さないように注意しながら返事をすると彼はとんでも無い事を言い出した。
「君、今からうちの子だからね」
意味が分からない。
いきなりの宣告に寝起きであまり活発とは言えない頭は未だ回復の余地を見せないし、例え回復していたとしてもこの発言に付いていけるかは微妙な所だ。
そもそも彼は私を殺すだのなんだのとのたまっていた様な気がするのだけれどと質問すれば、
「まあその内ね」
と投げやりにもほどがあるお返事を返された。
その答えに若干愕然としながらも私は口を開く。
「もしあんたが私を殺す気がないのなら」
静かに押し殺したように言葉を紡ぐ。
「私はここには居られない」
そうはっきりと告げると彼は今度はとてもびっくりしたように目を見開いた。
そう言えば彼は驚いてばかりだったと思って少しおかしくなる。
「なに、それ?どういうこと?」
私の言葉を聞いた彼の表情は直ぐに不機嫌なものへと変わり声も若干刺々しい。
なんとなくその感情を理解できないことはないけれど、私にはやらなくてはならないことがある。
「私は、化け物だから」
昨夜出会った真っ白な髪の毛と真っ赤な瞳のあの異形達と同じ生き物なのだから。
続