夢違う、貴方と

□第弐話
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「ぅぐ、…」

体に残るじんわりとした痛みで目が覚める。
無理矢理に瞼をこじ開け、周囲を見回した。
…どこだ、ここ。

「気がついた?」

どこかで聞いたような声がして、その方向へと視線を向けた。

「だれ、あんた…」
「命の恩人に向かって随分な言い草だね」

明るい茶色のさらさらとした髪の毛に、少し吊り上った翡翠色の瞳。
意地の悪そうな笑顔を浮かべる口元からは聞き覚えのある声色で淡々と言葉が吐き出される。
あぁ、とうずく痛みの中ようやく合点が言った。

「君、昨日の夜見たでしょ」

見た、とはあの化け物のことだろうか。
血に飢えた真紅の目玉を持つあの異形の物。

「…それが、なに」

あんなもの、結局私には微塵も関係のないものだ。
私を殺してくれない奴なんて。

「あれ、僕らにとって見られちゃ困るものだったんだよね」

薄笑いを浮かべながら言葉を続ける。


「だからさ、君、死んでもらうけど良い?」


死の、宣告を。

「別に、いいけど」

私の返答に相手は驚いたように目を見開いた。
一瞬、あの気味の悪い笑顔が消えて私を興味深そうにしげしげと眺める。

「なんでそんな落ち着いてるの、君?」
「了解を求めたのはあんたでしょう」

そっちこそわざわざ助けておいて殺すとは、随分と悪趣味で。
そう付け足すと今度は心底楽しそうに笑う彼。

「面白いね、君って」
「嬉しくない」

面白いと言われて喜ぶ奴が居るだろうか。
もし居たとしても私はその類には属さない。

「でも、面白いよ君」

けらけらと笑い続ける。
あまり笑われて良い気分はしないのだが今は体中が痛くて咎める元気もない。
もう一度眠りに付いてしまおうかと目を閉じるとすぐに体中の力が抜けて睡魔が襲ってくる。
完璧に夢の世界へ落ちる間際、声が聞こえた気がした。


(君を絶対に殺させたりしないから)
(おやすみ、良い夢を)



次ページ、おまけのような沖田さん視点。
 
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