夢違う、貴方と

□第壱話
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痛い、熱い、痛い、痛い、怖い。

「っぁ、ぐ…!」

深い深い黒の夜、私は血溜まりに倒れていた。
肩からは鮮血が滴り私の足元を赤黒く塗り潰していく。

「血ィ…、血ガ欲シイ…」

瞳を真っ赤に染めた化け物が私の目の前に立っている。
月の無い真っ暗な夜にその目はとても良く映えた。
その化け物の手には刀が握られており刀身には血が纏わりついている。

「血ガ、血ガ欲シイ…」
「…血が欲しいの?」

私には化け物が僅かに頷いた様に、見えた。


「―――ならば、存分に飲めば良いわ!」


私がそう、叫び終わらぬ内に化け物の頭から真っ赤な飛沫が飛び出す。
視界一杯に広がる赤、あか、紅。

「んなっ…」
「大丈夫?」

次に飛び込んできたのは綺麗に染め上げられた浅黄色の羽織。
その人は緩やかな声で私に問いかける。
声の質的に男の人なのだと判断した。
優しげな、声だった。

「だ、れ」
「君の命の恩人だよ」

どこか飄々とした雰囲気の声に私は呆然としたまま地面に這いつくばっている。
切り裂かれた肩の痛みは未だに消えず今は更に熱を持って来ているようだった。

「…どうかしたの?」

その人は心配してくれたのか、それともただの好奇心なのか私の肩へと手をかけた。

「ぃた、い」

瞬時に鋭い痛みが肩を突く。
それに驚いたのかその人は慌てて手を離した。

「怪我、してるのか…」

心配そうな声色になった瞬間、私の体は強張った。


「放って、おいて!」


その人の体が驚いたように揺れる。
そう、これで、これで良い。
もうこれで私は傷つかずに済む。

「それは無理、かな」

ばさりと上から降ってきたのは先程見たばかりの浅黄色の羽織。
多少怒ったような声でその人は続ける。

「どうしたら、道で傷ついた女の子放って置けると思う?」

それだけ言うとその人はまるで猫の子のように私を羽織でくるみ、そっと抱き上げた。
その腕の中がとても柔らかくて温かくて優しくて。

抵抗も忘れて私は無防備に眠りに付いた。



 

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