Hakuouki

□嫌い嫌い、大好き
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「なんなんだよいきなり」

思い切り不機嫌な顔で吐き捨てる様に言う平助。
そう言うのも無理はないと思う。
私は何も言わずに平助の長くて(凄くうざったい)髪の毛を引っ張ってここまで無言で歩いて来たのだから。

「俺、早く巡察行きたいんだけど」

必死で荒くなった呼吸を整える。
私の顔が凄く熱くて赤くなった自分の顔を想像した。
それとは対照的に平助の呼吸は乱れなんて知らない、なんて言うかのようにいつも通りで。

「千鶴待たしてるから俺もう行―――」
「うるさい」
「…はぁ?」

平助の言葉を遮る様に呟く。
そうしたらやっぱり平助は凄くいらついた様な顔でこちらを睨んできたから負けずに睨み返してやった。

「うるさいよ、平助」

これ見よがしに眉をしかめる平助。
私はそんな平助に更に腹が立って拳を強く握り締める。

「私、平助、嫌い」
「…で?」
「うるさいな、嫌い、なの」
「だから?」
「っ、ほんと、嫌い」

嫌い嫌い嫌い。
大嫌いだ、こんな奴。

「千鶴ちゃん、可愛い、よね」
「あぁ可愛いな」

本当、嫌い。
大嫌い。

「なんで、平助なんかと一緒に、いるんだろ」
「さぁ、俺が好きなんじゃねぇの」

嫌い大嫌い嫌い。
本当に大嫌い。

「なんで、あんな素直で、良い子、なんだろ」
「さぁ、千鶴だからじゃねぇの」

大嫌い大嫌い大嫌い。

「な、で」

平助は私を好きじゃないんだろ。

いつの間にか溢れ出した涙が頬を伝って地面に、着物に染みを作った。
でも私の掌は全くと言って良いほど動こうとはしなくて片方は平助の長い髪の毛を、もう片方はきつく握りしめられたまま。


「好き、だよ」


不意に口を吐いて出た言葉。
本当は、一度だって。

「嫌いなんかじゃ、ない」

そんなこと思ったことないのに。

「ほ、んとに好きで、大好きで」

冷たくて痛い言葉じゃなくて、優しくて温かい言葉がほしかった。

「いままで、ずっと…!」

刺す様な視線じゃなくて眩しい笑顔を私にも向けてほしかった。


「すき、だよ平助っ…!」


一度零れ出した気持ちは止まることなく溢れて、溢れて。
それに比例するように涙もぼろぼろと出てきて前が見えない。
喉がかすれて声もうまく出せないし、きっと顔だってぐちゃぐちゃだ。
平助のことだからきっと泣いてる私なんて一瞥して、とっとと千鶴ちゃんと一緒に巡察でも言っちゃうんだろうな。

「やだ、やだよ、いかないで…平助っ!!」

考えるだけで更に涙が出てくる。
まぶたの裏に平助の後姿が見えるようで。
足がすくんで、その場に座り込むことしか出来なくて。

「やだ、よぅ…」

置いていかれた子供のように泣き言を呟くことしか出来なくて。


「行かねーよ」


不意に頭に手が乗った。
それはとても大きくて骨ばっていて、それから不器用だけれど凄く優しく頭を撫でる。

「へ、すけ?」
「あぁ、そうだよ」

若干ぶっきらぼうに聞こえる声のトーンも今まで向けられたものの中で一番優しくて、心地良い。

「ったく、なんなんだよお前は」
「ご、ごめんなさっ」
「あ、いや、違う、違うから泣くな!」

ガシガシと頭を掻きながら必死に言葉を紡ぐ平助がぼんやりと浮かぶ。
何故か妙に平助の頬が赤い気がする、なんて言うのはきっと私の思い込み。

「あーくそ、もう苛々すんなあ!!」

いきなり叫びだした平助に思わず肩を震わせる。
平助はと言えばあーとかうーとか唸りながら私のほうに向き直った。

「お前、ほんとずりいよ」

…なんのことだか全く分からない。
でも、私はまた平助の気に入らないことをしてしまったのだろうか。
謝罪のために口を開いた瞬間、


「そんな可愛い顔して好きとか言われたら、俺だって好きになっちまうっつーの!」


(て言うかもう惚れ直した!!)
(…えぇっ?!)


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