Hakuouki

□そして私は期待する
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「俺さ、好きな奴出来た!」


笑顔であんたは、私に残酷な事を言った。

「良かったね、あんたにもついに春が来たじゃーん!」
「お、なになに?応援してくれんの?」
「もっちろん!」

だってそうしないとあんたは私から離れていってしまうから。
そうでしょ、平助?







「ばっかじゃないの?」
「総司、頼むからそんなに笑顔で言わないでくれる?」
「だって本当に馬鹿だと思ったから」

確かに。
思わず納得してしまう。

「そ、そんな事言われてもっ!」
「そんな事言われても?」

う。
こ、この性悪っ…!

「だ、って私…へ、平助が居ないと駄目なんだもん」

生きて、いけないんだもん。

「だから、気持ちを殺してでも私は平助の、傍に居たいっ…!」

例え、隣に平助に愛される子が居たとしても。

「…はぁ」
「何そのため息」
「いや、ほんと面倒くさいなと思ってさ」









「平助、まず第一に女の子が弱いのは甘い台詞よ!」
「そうなのか!」

只今、絶賛恋愛教育中。
本当はこんなことやりたくないけど私が選んだことだから。
平助の傍にいられるならなんだって構わない。

「ほら、原田さんみたいな感じ?」
「あ、それは分かり易いかも」

分からなくても、別に良いよ。
そう言いたいのを必死でこらえる。

「真顔で恥ずかしい台詞が吐けるようになったら一人前ね」
「…あんなことすんのかー」
「頑張りなさいよ、そのくらい!」

私にこんなに嫌な思いさせといて。
駄目だった、じゃ承知しない。
そこんとこ分かってんでしょうね、平助。

「応援、してるからね!」
「…ありがとな」

ここまで来たら私はもうあんたの為になんだってやってやるわよ。
その隣に座る筈の誰かの為に、あんたの為に。

ふと私の頭に疑問が浮かんだ。

「ねぇ、あんたの好きな人って誰なの?」

それくらい、知っても良いんじゃないかと思った。
教えて貰う権利くらい、あるんじゃないかと思った。

「か、関係、ねーだろ…!」

神様はそれすら私には与えられないのか。

「勝手にしろっ!!ばーかっ!!!!」

気付いたら私は逃げ出していた。









「馬鹿は私だろ、ばーか…」

落ち着いて考え直してみると自分は取り返しのつかない事をしてしまった様だ。

「ほーんと、自分勝手だよなぁ私…」

自室に帰って枕に抱きつく。
涙があとからあとから出てきて止まらなくて瞼を枕に押し付けた。

「最初に自分から傍に居られたらそれで良いなんて言っといて辛くなったら怒るんだもんね、あー嫌われて当然だわコレ」

なんて空しい一人遊び、とか思ってやめた。
なんの音もしなくなった部屋はただ静かで寂しくて。

「すきだよ、ちくしょー…」

あぁもう涙超うざったい。
とまってよ、本当。
それもこれも全部平助のせいだ、あんな奴あんな奴!

「っ、平助のばっかやろーっ!!!!」

思い切り叫ぶ。
部屋の中だけど気にしない。
頭の中でその声は木霊してそれから―――。


「馬鹿っていうな!」


新たな木霊。

「え、なんで平助がここにいんの」
「お前がいきなり泣き出してどっかいったからだろ!」

なんだそれ。

「あは、心配してくれたの?」
「そうだけど?!」

なんだよ、それ。

「好きな奴が泣いて心配しない男が居るかよっ!!!」

そんなこと言われたら。

「期待、しちゃうよ…」

馬鹿平助。

「…しとけよ、勝手に」

真っ赤な顔で呟く平助が何を思っているかは誰の目にも明らかで。
平助に負けず劣らず馬鹿な私は安心して期待することにした。




(結局、左之さんみたいに言えなかった…)
(でも格好良かったよ、平助)





 

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