クドリャフカ-星になった君へ-

□宇宙の向コウ
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昔、少年と小さな犬がいました。
犬の名前は、クドリャフカといいました。

少年とクドリャフカはとても仲良しでした。
クドリャフカは、少年が大好きでした。
少年もクドリャフカが大好きでした。
クドリャフカは、少年の飼い犬ではありませんでした。
クドリャフカは野良犬だったのです。


クドリャフカがとくに好きなのは、少年と一緒に夜空を見ることでした。
少年は、いつもクドリャフカに言いました。
「宇宙って、一体どんな所なんだろうね」
クドリャフカもいつも考えました。
−もし、私があの空へと飛んでいけたら

ある日のこと、少年とクドリャフカが、いつものように夜空を見上げているときでした。
知らない大人の人がやってきて、クドリャフカに言いました。
「あの宇宙に、行ってみないかい」
クドリャフカは少年に伝えました。
−私、あの空に行ってみたい
と。
少年はじっと、クドリャフカを見つめました。
「うん、わかった」
少年はにっこりと笑いました。
そのとき、少年が一粒の涙を落としました。
クドリャフカには、それがなんの涙なのか、わかりませんでした。

その日から、クドリャフカが遠い宇宙に飛び立つための準備が進められていきました。
そのために、クドリャフカと少年は夜空を見たりすることができなくなりました。
クドリャフカはたくさんの訓練を受けました。
辛い訓練ばかりでした。
少年とクドリャフカが会うことができる時間は、ほとんど無くなってしまいました。
でも、少年はいつもクドリャフカを励まし続けました。

いよいよ、クドリャフカが旅立つ日がやってきました。
クドリャフカは少年に言いました。
−きっとお星さまを捕まえて、君にあげるよ
少年は
「ありがとう、ありがとうクドリャフカ。きっとだよ」
そう言って、クドリャフカを抱きしめました。

そうして、連れてゆかれるクドリャフカの後ろ姿を見送りました。
クドリャフカは、振り返りませんでした。振り返らないで、一度だけ、大きく吠えました。
−いってきます

クドリャフカの姿が見えなくなっても、少年はそこにいました。

クドリャフカは行ってしまいました。
小さな小さな、宇宙船に乗って

片道だけの、切符を持って。


少年はいつも、空を見上げました。
少年はもう、空の最果てに行ってしまったクドリャフカがどうなってしまったのか、全くわかりませんでした。
でも、きっとこの空のどこかに、小さなクドリャフカはいる
そう、信じ続けました。

クドリャフカが旅立って、10日。とうとうクドリャフカの旅が終わる日です。

少年は夜空を見上げました。
一つの流れ星が、夜空を駆け抜けていくのが見えました。
少年は、あれはたしかにクドリャフカだと思いました。
クドリャフカは少年に、小さな星を持ってきました。
少年は溢れる涙を拭いて、夜空に向かって叫びました。

「おかえり、クドリャフカ」

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