虹色世界の流離譚

□Stage 1
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何だ何だ、と野次馬が集まって来て、いつのまにか真守の恋路(もちろん全然違う)を勝手に応援しはじめた。

その騒ぎに乗じて、月子はこっそりと教室を抜け出す。廊下を走って走って、人気のない曲がり角まで来たところで、ふうっと息を吐いた。

先ほどかいてしまった変な汗をぬぐっているうちに、気がついた。

めまいがすっかりなおっている。悪寒も感じないし、息も苦しくない。どうやらまた、石に振り回されてしまったようだ。

月子は額に手を当て、壁に力なくもたれかかる。

「いい加減にしてよ。全くもう……」

この様子だと、明日からあの男子生徒との仲をからかわれるだろう。本人たちにそのつもりはなくても、周囲は面白がってはやし立てるに違いない。

せっかく目立たないように行動しようと思ったのに、初日から目標達成が困難になりそうだ。

せめてチャイムが鳴るまで、教室に戻らず時間をつぶそう。月子は服の上から石を握りつつ、そう思った。




(ん……何だ?)

理科室へ移動しようとしていた弦稀(つるぎ)は、ふと足を止めた。今、確かに感じた感覚を探るように、あちこちを見渡す。

今、確実に石の気配がした――それも、友人の真守のものとは違う気配だ。

やはり自分の勘は当たっていたようだ。けれど、どこにあるのかまでは判別がつかない。

弦稀は石の気配を感じることができるとはいえ、その石と自分との距離がどの程度あるのかまでは、測ることはできないのだ。

だから実際、真守とは違う石の持ち主が、この学校内にいるのか、それとも外にいるのか、結局はわからないのだ。

(けれど、この様子じゃ確実に町内にはいそうだな……)

遠ざかるどころか、日に日に強くなっていく石の気配。この分だと、また仲間を見つけるのも時間の問題だ。

今すぐその仲間を探しだしたいところだが、一人では何分無理がある。やはり、放課後に真守と手分けしてあちこちを散策しよう。

はやる気持ちを無理やり押さえつけ、弦稀は止めていた足を再び動かした。


○○


「で、どうだ、弦稀。近くにいそうか」

「……だめだ。全然、わからない」

「はあー、ここも駄目かあ」
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