虹色世界の流離譚
□Stage 1
3ページ/14ページ
服の下に隠すようにして、首から下げている石。それが、心臓の鼓動のごとく、素早い明滅を繰り返している。
(いやあっ……)
雑音が頭の中へと忍び込み、指先が震え、勝手に息が荒くなっていく。
月子は立ち上がると、一目散に教室を出ていこうとした。とにかく、ここにいるわけにはいかないと思ったのだ。
「きゃっ!」
前方をろくに確認していなかったせいで、誰かとぶつかってしまった。反動で後ろへ倒れかけたところ、手を伸ばされて引き寄せられる。
「っと、あっぶねー。大丈夫?」
「っ!……あ、ご、ごめんなさっ……」
とっさに顔をあげると、隣りの席の遠城寺真守の顔が、目と鼻の先ほどの距離にあった。月子は突然のことに声を失った。
「……風賀美さん、やっぱり具合悪そうだよ? 本当に大丈夫? 保健室に行った方がいいんじゃない?」
どうやら彼は、本当に自分のことを心配した上で、助言してくれているようだ。だが今は、それに対して礼を言う余裕などない。
どう考えても、あまりに距離が近すぎる。呼吸が絡み合いそうなほどだ。手を掴まれているから離れていくこともできないし、舌が回らないせいで抗議することもできない。
だんだん顔が赤くなっていく月子を見ているうちに、真守の方が何かに気がついたのか、ぱっと手を放した。
「ご、ごめん、風賀美さん……」
「う、ううん……」
顔を横に振るが、相手の顔をまともに見ることができない。別の意味で、鼓動が早鐘を打っている。
その一部始終を見ていたらしき女子生徒が、きゃあっ、と無責任な歓声をあげた。
「やるじゃん、遠城寺君。ちょっと見直したよー」
「えっ? い、いや、そんなんじゃないって!」
あわてて手を振って弁解する真守の肩を、別の男子生徒が叩いた。
「お前って、案外手え早かったんだな。油断も隙もねえ!」
「だから違うって言ってるだろおがっ!」