虹色世界の流離譚
□Prelude 2
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テレビの音量が、一気に大きくなった。母がリモコン操作をしたわけではなく、スタジオの観客の歓声が大波のように盛り上がっただけだった。
それなりに人気のあるトークバラエティ番組の本日のゲストは、月子とそう年齢が違わない、双子の兄妹のタレントだ。最近、話題になった映画で共演し、実力派の子役兄弟ともてはやされている。
(ああやって、輝いている人もいるんだな……)
同じ地球にいるはずなのに、テレビの中とテレビの前では、どうしてこんなにも格差を感じてしまうのだろう。
最後の一口を咀嚼して、立ち上がる。そのまま自分の部屋へ直行し、我が身を抱きしめるようにして、ベッドに倒れ込んだ。
「やめて……大人しくして」
石が、うるさい。蛍火のように、淡い明滅をさっきから繰り返している。何かを、月子に訴えかけているのだろうか――あるいは。
「私をからかっているだけなら、やめてよ。私が苦しむのが、そんなに楽しいの?」
ふと、何もかもが絶対的に嫌になった。布団を頭からかぶって、すべての音を締め出す。
何もかも静かになってくれないと、気が狂ってしまいそうだ。月子は嗚咽をこらえながら、その日の夜をやりすごした。
○○
『おう弦稀(つるぎ)、何か用?』
今日の昼も聞いた、陽気な同級生の声が電話の向こうで響く。麻倉弦稀は息をひとつ飲み、居間の家族の様子をうかがった。廊下にある固定電話を使っている自分に、誰も注意を払っていない。
それでもことさら、低い声で言う。
「何か、変な気分なんだ……」
『へ?』
クラスメイトの遠城寺真守(おんじょうじまもる)は、間の抜けた声を出した。確かに、このあらゆる説明を省いた言葉だけでは、要領が得られなかっただろう。
『悪い。もう少し丁寧に説明して欲しいんだけど』
「変なんだ……石が、さっきからうるさい」
『……え?』
たちまち、電話の向こうで絶句がおこる。たぶん、真守はほとんど弦稀の言いたいことを理解したのだろう。彼は、数秒間押し黙ってから、小声で弦稀に尋ね返す。
『なあ、それって、俺たちとおんなじような奴が、他にもいるってことだよな?』
「たぶんな。この感覚は、俺がお前に出会う前に感じた感覚とそっくりだから。また近いうちに、俺は石を持った奴に出くわすのかもしれない」