虹色世界の流離譚

□Stage 6
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「俺、どうしたのかな? さっき頭が痛くなって、たぶん倒れちゃって……ここ、どこなんだ? 風賀美さん、どうしてそんな変わった格好をしているの?」

「……」

唇をひき結び、月子は顔をあげた。

――今は、見た夢に無責任に脅えている場合ではないのだ。

「遠城寺君、落ちついて聞いてほしいの」

無言で首をかしげた真守に、目を合わせる。

「ここはね、地球じゃないのよ」

そして月子は、自分自身もなかなか受け入れられなかった事実を、彼に語りだした。



真守の体調の回復は、あまり思わしくなかった。

ヘレムが引き続き治癒にあたり、リオもあれこれと気を配ってはくれたのだが、真守はどうも、一定時間動いた後、横にならないと体が持たないらしかった。

弦稀も月子も、こういう不調を訴えることはなかったので、〈シュビレ〉の一族の皆は、あれやこれやと知恵を出し合う日々が続いている。

月子はその様子を、傍らで呆然と見ているばかりだった。

(本当に、この世界の人たちにとって、〈イリスの落とし子〉って大事な存在なんだなあ……)

とても違和感のある、むずがゆい事実だった。

月子たち自身は以前と何も変わりないのに、〈イリスの落とし子〉という付加価値が、彼女を大層な存在に祭り上げているのだ。

ある夜、〈シュビレ〉の面々と、弦稀と月子が集い、真守の今後について話し合いの場を設けた。

すでに日は暮れ、天幕の中に点された光が、各々の表情を淡く照らしている。

「真守の一族に……雷の〈ロキア〉でしたっけ? に、応援を頼むのはだめなんですか?」

すかさずリオが、言いにくそうに口を開いた。

「お二人には、説明がまだでしたね……すべての七部族と最近交わした約条で、保護した〈イリスの落とし子〉たちは、なるだけそこから動かさないこと、安全のためにしばらくは元の一族に戻さないことを、決めているのです」

リオが言うには、

「〈イリスの落とし子〉たちが自分達の部族の領域にいれば、〈デミウルゴス〉に発見されやすいので、攪乱のためというのが第一の理由です。他の理由は、例えばツルギ様の剣の一族にあなたをお返しした場合、あなたは同族が人質に取られてしまえば、すぐに〈デミウルゴス〉たちに降伏せざるをえないでしょう」

との理屈らしい。

「何度も話し合いを重ねた結果なのです。ですからお三方とも、しばらくは我々〈シュビレ〉の元に留まることをご了承ください」

弦稀は盛大に眉をしかめた。
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