虹色世界の流離譚

□Stage 6
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(遠城寺君、お願いだから目覚めて)

尽力している皆のためにも。

疲れを押して、そばについている弦稀のためにも。

(私も、あなたともう一度、話をしたいの)

許してくれなくてもいい、ただ、謝りたかった。

指がゆるくまるまったままの手を握り、祈るように額に当てた。

「――やあ、久しぶり。風賀美さん」

月子は、心臓が飛び出るくらい驚いた。だが、聞き間違うはずがなかった。すぐに首を巡らせば、寝台に横たわったままの真守が微笑んでこちらをみている。

「……遠城寺君っ!」

緊張がどっとゆるんで、安堵が押し寄せ、視界がかすんでしまった。

あわてて涙をぬぐって、頬笑み返す。

「あ、あのね、遠城寺君……」

何から言えばいいのだろうか。ここが地球と違う世界、〈ダナン・ガルズ〉であることか。傷づけたことへの謝罪か。月子と弦稀の二人が、突然あちらからいなくなったことの説明か。

どれも言いたいし、でもどう順序立てればいいのかわからなくて、月子は混乱する。

そんな彼女に笑みを向けたまま、真守はこう言った。

「大丈夫。俺はもう、全部わかっているから」

「え?」

真守は上半身を起こし、先ほどと変わらない笑みを月子に向ける。

なんと、暖かな笑みなんだろうと、月子は感心した。

これが、脅えながら月子に石を見せてきた、少年と同じ人物なのだろうか。

「俺は、全部わかってるんだ。だから、安心して、風賀美さん」

不安で陰った様子などどこにもなく、すべてを知って達観した余裕すら、垣間見える。

真守の言葉から、月子は必死で推測する。自分達に力がある理由や、自分達はここに生まれるはずの存在であり、地球に生まれるはずではなかったということを、真守に伝えた人物がいた、ということだろうか。

(でも、そうだとしたら、いつ、どこで、真守君はそれを知ることができたの……?)

「風賀美さん、俺がいない間、弦稀と何をしてたの?」

黙考していた月子は、自分の非礼をわびながら彼に目を向け――凍りついてしまった。

真守の顔に浮かんでいた、穏やかな表情は一切消失し、その瞳には冷たい光が宿っている。

糾弾するような視線に、月子はついていけず、混乱することしかできなかった。

「遠城寺、君……?」

そしてやっと思い当った――彼は、自分に怒っているのだ。

月子はあわてて、頭を下げた。

「あ、あの、この前は傷つけてごめんなさい! 許してくれなんて言わないわ、でも、謝りたいの……ほんとうに、ごめ」

言葉はそこで途切れた。顎に冷たい指がかかり、月子は強制的に上向かされる。

真守の、うっすら笑みを刷いた唇に、息をのむ。

彼は、こんな表情をする人だったか?
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