虹色世界の流離譚
□Stage 6
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「あの、麻倉(あさくら)君、もう寝たらどう?」
「ああ、そうだな」
弦稀(つるぎ)の生返事に、月子はハラハラする。彼は昨夜も全く寝ていないらしいのに、今日も徹夜するつもりだろうか。
弦稀の視線の先を、月子も追った。寝台に横たわっているのは、あいかわらず気を失ったままの真守(まもる)だ。
真守は運び込まれてから、瞼をほんの少しも動かさず、深い眠りに落ちている。
時折息をしていないのかと不吉な予感すら抱くほど、微動だにしないのだ。
そんな親友の側を、弦稀は一向に離れようとしなかった。自らの寝食もかえり見ないで、真守の手をずっと両手で握りしめている。
これだけ心配してくれる友達がいるなんて、真守は幸せだなと月子は羨むこともあったが、それ以上に弦稀の体調も心配だった。
「あのね、遠城寺(おんじょうじ)君が目が覚めた時、あなたが交代するみたいに倒れちゃったら、遠城寺君を心配させちゃうでしょ。そんなことになってもいいの? やっぱり、休まなきゃ、ね?」
弦稀は、ちらりと月子を見て、まだ視線を戻した。
「風賀美(かざかみ)は先に寝ればいい。俺はもう少し、起きているから」
「……」
そんなこと言って、また朝までこのままでいるつもりなのだ。
「じゃあ、私も寝ない。私だって、遠城寺君が心配なんだから」
覚悟を決め、弦稀の隣に座ると、不思議そうな反応を返された。
「どうしてだ。お前は休んでろ」
「私、さっき同じことを麻倉君に言ったのに、全然聞き入れてくれなかったじゃない。じゃあ、私も麻倉君の言うこと、聞く必要ないもん」
「……」
弦稀は数十秒黙考した後、床に体を横たえた。
「麻倉君?」
「少し寝てやるから、俺の目が覚めたら、風賀美は自分のテントに戻れ。いいな?」
(な、なんでそんなに偉そうなの?)
が、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。やはり、疲れていたのだろう。
月子は、リオが置いていった掛け布を、そっと弦稀にかけてやった。
昨日から、シュビレ達はあわただしくかけずり回っている。最後の〈イリスの落とし子〉である真守が見つかったため、ある者は〈雷〉の部族への連絡調整をし、またある者は〈デミルウゴス〉の万が一の襲撃にそなえ、武装を強化している。
真守には、外傷がないらしかった。頭も特に打った様子はないという。すでに治癒術を施された後なのに、彼は原因不明の昏睡状態に陥ったままだ。
リオが、治癒術を施した婚約者に(ちなみにこの少女の名を、月子はずっと聞きそびれていたのだが、ヘレムというらしい)、なぜ真守が目覚めないのかを問い詰めていたが、ヘレムは涙目で首を横に振るだけだった。
息はしているのに、目立つ外傷もないのに、目が覚めない原因は何なのだろう。