虹色世界の流離譚

□Stage 4
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「うふふ、ちょっと様子を見に来ただけなんだけど、これで〈イリスの落とし子〉を二人も持ち帰れるなんて、すっごい大収穫だわ。〈火〉と〈水〉は手の内だし、〈風〉と〈鋼〉がそろったら、あとはたったの三人。それくらい、すぐにしとめてみせるわよ」

少女の言い草から、弦稀はふと思い当たる――こいつらは少なくとも、〈イリスの落とし子〉の命を奪うつもりはないのではないか?

もしかしたらそうなのかもしれない。

〈イリスの落とし子〉を、どういう目的で狙っているのかは依然としてはっきりしない。しかし、現段階で二人の〈イリスの落とし子〉を捕えている状態だということは、〈イリスの落とし子〉としての存在が必要なのだ、と言いかえることも可能だろう。

命を奪うのが目的であるなら、まどろっこしいことなどせずに殺せば済む。しかし、生かしておく必要があるのであれば、殺すなんてことはしないはずだ。

ならば、さっきのは単なる脅しで、反撃の余地はあるかもしれない。

と、そこまで考えて、弦稀は歯ぎしりした。

あの少女の手のうちには、リオがとらわれている。彼は〈イリスの落とし子〉ではない。ならば、下手に動けば何をされるか。

考えを読まれたかのように、リオがぐぐもった悲鳴をあげ、弦稀の背が凍りついた。

彼は首を両手でかきむしり、身をよじってあえぐ。少女の握る糸が、リオの命を追い詰めているのは明らかだった。

「俺たちに用があるなら、この人は関係ないだろ!」

するどく吼えても、少女は笑って受け流す。

「寝ぼけたことを言わないで。〈シュビレ〉は総じて〈イリスの落とし子〉に肩入れしてるんだし、それだったら私たちの敵になるわ。だって、邪魔だもの。ねえ?」

くい、っと少女が手首を動かす。リオの首に赤い線が走り、つうと液体がこぼれた。

「ふざけんな!」

「やめて! リオさんは関係ないのに!」

月子の絶叫に、少女は一瞬表情を消して舌打ちする。

「うるさいのよ。役立たずの〈風〉のくせして!」

「いゃあああああっ!!」

月子の片腕が、ざっくりと切られ赤く染まっていく。
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