虹色世界の流離譚
□Stage 4
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敷物に、弦稀の想いの強さの分だけ跡が残る。
手の形にへこんだ布をを眺めながら、深く深く悔恨の息をついたとき。
――高い悲鳴が、耳をつんざいた。
○○
脊髄反射のごとく、ただ足が動いた。
テントから出て周囲を見渡し、はるか前方に人影を認め、弦稀はそこへ向かって駆ける。
その焦燥へ呼応するように、首からさげた石が何かを訴えてきた。言葉ではない何かで、弦稀の内側をつつき、弦稀が知らなかった眠れる本能を刺激する。
直感の赴くままに、走りながら髪の毛を一本ぬいた。それはたちまち、肘くらいの長さの針へと変化する。
「風賀美っ!」
人影の姿が、はっきりと視認できた。
そこには全部で三人がいた。両手を首にあてて倒れ伏すリオと、少し離れた場所で両手を広げて立ちつくし、硬直する月子。そして、唇を歪めて微笑む、黒装束の少女。
三人はちょうど、三角形を形作るような位置にいた。黒装束の少女が弦稀の方を振り返り、挑発をかねてか片手を振る。
「あらあっ、もう一人〈イリスの落とし子〉のお出まし? うふふ、楽しくなりそう」
「お前、〈デミウルゴス〉かっ!」
手に構えた針を、少女へ向かって投げようとした。
その刹那、少女のあでやかな唇が、怜悧過ぎる言葉を吐いた。
「動くんじゃないわ」
少女がくいっと手を引き寄せ、まるでその動きに合わせたかのように、月子が悲鳴をあげた。
「いやあっ!」
嫌な予感がして、弦稀は動きを止めた。
青ざめた月子を見やる。両手を、地面と平行に上げている彼女に、何かがまとわりついていた。
光を反射する、透明な細い糸。
「さて、ここで問題です」
そういって少女は、弦稀を指差す。
「あなたが、その針を投げて、私の体を貫く速さと」
次に、リオを指差し、
「あの彼の首が、締め上げられる速さと」
最後に、月子を指差した。
「あの子の全身が輪切りにされる速さと、どっちが速いでしょうか? ふふ、あんまり難しくないわよね?」
優位を確信した少女の片手には透明な糸が握られ、少女の手の動きにあわせて揺れている。それは、リオと月子へ伸び、二人をからめとって、動きを封じているのだ。
「このやろう……」
弦稀は手を降ろすこともできずに、射殺さんばかりに少女を睨みつける。
この状況は確かに不利だ。自分ひとりで、同時に二人を助けられる可能性があるかどうかは怪しい。
この距離からして、針が少女に到達したとしても、月子とリオはこと切れてしまうかもしれない。